人間の協力性

 人間の協力性についての研究(Peysakhovich et al., 2014)が公表されました。この研究は、1400人以上の被験者の参加した協力ゲーム・規範強制型懲罰ゲーム・競争ゲームの結果から、協力するという決定がさまざまなシナリオにわたって相関するかどうか、検証しました。その結果、さまざまな協力ゲームにおける参加者の意思決定に相関が認められ、ゲームにおける意思決定がゲーム以外の状況下での自己申告に基づく協力の指標および実際の協力の指標の両者と相関していたことも明らかになりました。さらに、平均124日の間隔でなされた2つの協力の意思決定が同じ程度に強く相関していることも明らかになり、時間が経過しても協力性が安定していることも示されました。一方、協力行動が規範を強制するための懲罰や非競争的状況と相関しないことも明らかになり、協力傾向が状況に依存するという考え方を裏付ける実験的証拠はほとんど得られなかった、とのことです。この研究は、「協力性の表現型」の証拠がもたらされた、と結論づけています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【社会科学】あなたは協力者ですか

 ヒトに協力性の表現型が存在することを示す証拠について報告する論文が、今週掲載される。表現型とは、遺伝子と環境の相互作用によって作り出される性質のことだ。

 協力行動は、社会性を持つ生物種の繁栄にとって根本的に重要だが、協力行動をとる個体は、他者の利益のために犠牲を払うことが求められる。ヒトの協力の仕方と協力する場面、それに、進化と戦略的論法によって協力行動が生まれる理由を解明することは、自然科学、社会科学を通じて、研究者の大きな課題となっている。

 今回、David Randたちは、1,400人以上の被験者からゲームを行う際の意思決定(数千例)を収集して、協力性の表現型の存在を裏付ける大量の実験データを生成した。Randたちは、協力ゲーム、規範強制型懲罰ゲーム、競争ゲームを用いて、協力するという決定が、さまざまなシナリオにわたって相関するかどうかを調べた。また、今回の研究では、世界価値観調査を用いて、ゲームでの行動に、基本的な道徳的価値観が反映されているのかどうかを調べ、そして、ゲーム参加者に実験の終了を告げた上で、フィードバックの提供を通じて他の参加者を助けることを依頼して、ゲーム以外の場における現実の援助行動を調べた。

 その結果、さまざまな協力ゲームにおける参加者の意思決定に相関が認められた。また、ゲームにおける意思決定は、ゲーム以外の状況下での自己申告に基づく協力の指標と実際の協力の指標の両者と相関していた。さらに、平均124日の間隔でなされた2つの協力の意思決定が同じ程度に強く相関していることが明らかになり、時間がたっても協力性が安定していることも示された。一方、協力行動は、規範を強制するための懲罰や非競争的状況と相関しないことも明らかになり、協力傾向が状況に依存するという考え方を裏付ける実験的証拠はほとんど得られなかった。

 今回の研究で行われた一連の実験で、ヒトの社会的選好の一般性に関する詳細な評価が得られ、「協力性の表現型」の証拠がもたらされた。



参考文献:
Peysakhovich A, Nowak MA, and Rand DG.(2014): Humans display a ‘cooperative phenotype’ that is domain general and temporally stable. Nature Communications, 5, 4939.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms5939

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