アシュケナージ系ユダヤ人の起源

 アシュケナージ系ユダヤ人の起源についての研究(Carmi et al., 2014)が公表されました。この研究によると、アシュケナージ系ユダヤ人集団は800~600年前頃にヨーロッパ系祖先集団と中東系祖先集団が融合して出現したそうです。そのさいの遺伝子プールに占める両祖先集団の割合はほぼ同程度だった、と推測されています。アシュケナージ系ユダヤ人集団が形成された時期と近い頃に、集団ボトルネックが起きたようです。また、ヨーロッパ系祖先集団が最終氷期極大期の頃の22100~20400年前に中東系祖先集団から分岐した時に、創始者集団のボトルネックが起きた、と推測されているようです。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【遺伝】アシュケナージ系ユダヤ人のルーツ

 現代のアシュケナージ系ユダヤ人集団については、最近のいくつかの遺伝学的研究によって、特徴が明らかにされているが、今週掲載される論文によれば、この集団の出現は、約600~800年前のことであり、ヨーロッパ系祖先集団と中東系祖先集団の融合の結果であった可能性が非常に高いとされる。

 過去の研究で、アシュケナージ系ユダヤ人は、他のユダヤ人集団と現代の中東系、ヨーロッパ系の人々に近縁な遺伝的に独立した集団とされていた。独立した集団には、独特な遺伝的特徴が見られることが多く、アシュケナージ系ユダヤ人の独特な遺伝的特徴の1つは、パーキンソン病、乳がん、卵巣がんなどの遺伝性疾患の罹患率が高いことだ。

 今回、Itsik Pe’erたちは、アシュケナージ系ユダヤ人の128件の完全ゲノムの高深度配列解読を行い、その結果を用いて、過去の研究によって報告されていた集団ボトルネック(集団内個体数の激減)があったことを確認し、それが25~32世代前だったことを明らかにした。

 また、Pe’erたちは、現代のアシュケナージ系ユダヤ人が形成されたのが600~800年前(集団ボトルネックが起こった時期に近い)で、ヨーロッパ系祖先集団と中東系祖先集団の融合によるものだったことを示すモデルを作成した。また、ヨーロッパ系祖先集団が20400~22100年前(最終氷期極大期の頃)に中東系祖先集団から分岐した時に、創始者集団のボトルネックが起こったことも明らかになった。ヨーロッパ系祖先集団と中東系祖先集団のそれぞれの祖先も独自のボトルネックを起こしたことも判明し、それが「出アフリカ」事象に対応している可能性が非常に高いと考えられている。

 今回の研究は、ヨーロッパ人と中東人の歴史に関する手掛かりをもたらしているだけでなく、アシュケナージ系ユダヤ人集団の基準ゲノムを明らかにしており、これまでより容易に有害な遺伝的変異を同定できるようになった。



参考文献:
Carmi S. et al.(2014): Sequencing an Ashkenazi reference panel supports population-targeted personal genomics and illuminates Jewish and European origins. Nature Communications, 5, 4835.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms5835

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