中沢弘基『生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像』第2刷
講談社現代新書の一冊として、講談社より2014年6月に刊行されました。第1刷の刊行は2014年5月です。本書の特徴は、(地球)物理学・化学に基づき、地球誕生以降の分子単位での物質の変遷とエネルギーの動きを追うことで、生命誕生へと至る経緯を把握しようとしていることです。地球史の観点からの壮大な生命起源論となっており、困惑させられたところが少なくありません。ただ、生命は諸物質から構成されているわけですから、物理学・化学の観点からの生命起源論はある意味当然とも言えます。
本書は地球史を、熱放出による冷却化にともなう、複雑な構造への秩序化の過程である、と把握しています。生命の誕生は、この傾向の中で、地球の形状が安定し冷却化していった40億~38億年前頃に、隕石の大量衝突(本書では「後期重爆撃」と呼ばれています)があったという条件が重なったうえでの必然だった、というのが本書の見解です。本書が強調しているのは、水があれば生命が誕生するわけではなく、生命誕生の舞台が海だったわけでもない、ということです。地球のような形成過程・冷却化・隕石の大量衝突があって、生命の誕生が可能となった、とする本書は、地球外生命体の存在の可能性について、やや否定的です。本書の提示する生命誕生の過程を簡潔にまとめると、以下のようになります。
地球は46億年前に誕生しました。43億年前には冷却化にともない海洋が形成されます。40億~38億年前に多くの隕石が地球に衝突し、そのさいに大量の有機分子が形成され(本書では「有機分子ビッグ・バン」と呼ばれています)、これが後に生命へとつながっていきます。この時、水溶性ではない有機分子は分解されていったので、生命を構成する有機分子は水溶性のみとなりました。有機分子は高圧下の海洋堆積物中で高分子化していき、小胞を形成したものが高熱の環境でも分解されずに維持されました。本書は、ここに「個体」が成立した、と把握しています。
この「個体」は小胞同士の融合により他の高分子を取り込み、巨大分子化を果たすとともに、タンパク質を形成して代謝機能を獲得しました。本書はこれを、「無遺伝子生命体」と呼んでいます。38億~37億年前頃に、この「無遺伝子生命体」が小胞融合により核酸塩基や核酸の「片鱗」を取り込み、RNA・DNAを形成して「自己複製(遺伝)機能」を獲得しました。ここに生命が誕生し、ここまでの過程は、海洋堆積物中の「地下」で進行しました。27億年前に生命は浅海環境に進出して増殖し、「適応放散」の端緒を開拓しました。
本書は、生命誕生の過程をこのように把握しています。生命が海で誕生したという認識は広く浸透しているでしょうが、本書は、海では有機分子の高濃度化・融合が起きないとして、有機分子の高分子化から生命の誕生は海洋堆積物中たる「地下」で進行した、と主張します。もちろん、これは生命の誕生に水が不要だということではなく、水は必要なのですが、生命の誕生の場は海(水中)ではなかった、ということです。こうした仮説の前提となる諸々の見解の根拠は、物理学・化学の諸研究成果です。
本書は生命の起源について、有力説?と異なる見解を提示しているだけではなく、生命の把握・進化系統樹についても、有力説?を批判し、新たな見解を提示しています。じゅうらいの進化系統樹では、「究極の祖先」から生物が分岐していった、とされます。しかし、初期の生物が細胞内共生・細胞融合により進化していき、遺伝子の水平転移が無視できないほどの頻度だとしたら、系統樹を1本の樹として描くことは妥当ではない、ということになります。現在の進化系統樹は、真核生物の登場後に有効なものである、というわけです。さらに本書は、細胞内共生・細胞融合は、生命誕生前の有機分子の高分子化・巨大化の在り様を引き継いだものである、とも主張しています。
本書は現在一般的な生命起源論とはかなり異なる見解を提示しているようです。本書の見解がどこまで妥当なのか、門外漢としては今後の研究の進展を俟つしかありませんが、地球における物質の変化とエネルギーの動きという観点からの生命起源論は、私には新鮮でした。私も、水があり、適度な温度の惑星であれば生命が誕生しても不思議ではないのかな、と漠然と考えていただけですので、本書を読んで、生命の誕生には厳しい必要条件があるのだな、と考えを改めた次第です。ただ、本書の見解が妥当だとすると、地球外生命体の存在の可能性がかなり低くなってしまうわけで、それは残念なことだとも感じています。
本書は地球史を、熱放出による冷却化にともなう、複雑な構造への秩序化の過程である、と把握しています。生命の誕生は、この傾向の中で、地球の形状が安定し冷却化していった40億~38億年前頃に、隕石の大量衝突(本書では「後期重爆撃」と呼ばれています)があったという条件が重なったうえでの必然だった、というのが本書の見解です。本書が強調しているのは、水があれば生命が誕生するわけではなく、生命誕生の舞台が海だったわけでもない、ということです。地球のような形成過程・冷却化・隕石の大量衝突があって、生命の誕生が可能となった、とする本書は、地球外生命体の存在の可能性について、やや否定的です。本書の提示する生命誕生の過程を簡潔にまとめると、以下のようになります。
地球は46億年前に誕生しました。43億年前には冷却化にともない海洋が形成されます。40億~38億年前に多くの隕石が地球に衝突し、そのさいに大量の有機分子が形成され(本書では「有機分子ビッグ・バン」と呼ばれています)、これが後に生命へとつながっていきます。この時、水溶性ではない有機分子は分解されていったので、生命を構成する有機分子は水溶性のみとなりました。有機分子は高圧下の海洋堆積物中で高分子化していき、小胞を形成したものが高熱の環境でも分解されずに維持されました。本書は、ここに「個体」が成立した、と把握しています。
この「個体」は小胞同士の融合により他の高分子を取り込み、巨大分子化を果たすとともに、タンパク質を形成して代謝機能を獲得しました。本書はこれを、「無遺伝子生命体」と呼んでいます。38億~37億年前頃に、この「無遺伝子生命体」が小胞融合により核酸塩基や核酸の「片鱗」を取り込み、RNA・DNAを形成して「自己複製(遺伝)機能」を獲得しました。ここに生命が誕生し、ここまでの過程は、海洋堆積物中の「地下」で進行しました。27億年前に生命は浅海環境に進出して増殖し、「適応放散」の端緒を開拓しました。
本書は、生命誕生の過程をこのように把握しています。生命が海で誕生したという認識は広く浸透しているでしょうが、本書は、海では有機分子の高濃度化・融合が起きないとして、有機分子の高分子化から生命の誕生は海洋堆積物中たる「地下」で進行した、と主張します。もちろん、これは生命の誕生に水が不要だということではなく、水は必要なのですが、生命の誕生の場は海(水中)ではなかった、ということです。こうした仮説の前提となる諸々の見解の根拠は、物理学・化学の諸研究成果です。
本書は生命の起源について、有力説?と異なる見解を提示しているだけではなく、生命の把握・進化系統樹についても、有力説?を批判し、新たな見解を提示しています。じゅうらいの進化系統樹では、「究極の祖先」から生物が分岐していった、とされます。しかし、初期の生物が細胞内共生・細胞融合により進化していき、遺伝子の水平転移が無視できないほどの頻度だとしたら、系統樹を1本の樹として描くことは妥当ではない、ということになります。現在の進化系統樹は、真核生物の登場後に有効なものである、というわけです。さらに本書は、細胞内共生・細胞融合は、生命誕生前の有機分子の高分子化・巨大化の在り様を引き継いだものである、とも主張しています。
本書は現在一般的な生命起源論とはかなり異なる見解を提示しているようです。本書の見解がどこまで妥当なのか、門外漢としては今後の研究の進展を俟つしかありませんが、地球における物質の変化とエネルギーの動きという観点からの生命起源論は、私には新鮮でした。私も、水があり、適度な温度の惑星であれば生命が誕生しても不思議ではないのかな、と漠然と考えていただけですので、本書を読んで、生命の誕生には厳しい必要条件があるのだな、と考えを改めた次第です。ただ、本書の見解が妥当だとすると、地球外生命体の存在の可能性がかなり低くなってしまうわけで、それは残念なことだとも感じています。
この記事へのコメント
ウイルスは当書において仮定された「初期小胞個体群」に類似した特徴を持ちながら、"片鱗"の規模を遥かに越えた情報量のRNAやDNAを中核にもち、なおかつ「種」に分類されると言う点では初期小胞個体群とは大きく隔たり、他の「生命」と共通項を有している。
・・・・このようなウイルスの起源について言及があったならば、当書の生命起源についての考察もさらに深みを増したと思われるのだが・・・・。