排泄物の分析によるネアンデルタール人の食性の推定

 排泄物(糞便)の分析によりネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)の食性を推定した研究(Sistiaga et al., 2014)が報道されました。ナショナルジオグラフィックでも取り上げられています。本論文は、これまでのネアンデルタール人の食性に関する研究が、間接的な推定に留まっていたことを指摘しています。それらは動物考古学や同位体分析によるもので、ネアンデルタール人は肉食者との印象が形成されてきました。一方で、歯石についての研究と散在的な古植物学の証拠からは、ネアンデルタール人の食性に植物がある程度寄与していただろうと推測されていますが、これらも確定的とは言えない、と本論文は指摘しています。

 そうした状況において、ネアンデルタール人の食性への植物資源の寄与に関して、この研究は初めて直接的な証拠を提示できた、と本論文はその意義を強調しています。この研究では、スペイン南部のバレンシア州アリカンテ県にある中部旧石器時代のエルソルト(El Salt)開地遺跡(年代は60700±8900年前~45200±3400年前)で発見された排泄物が分析され、ネアンデルタール人の食性が推定されています。これらの排泄物は、異なる区画から5個発見されました。

 これらの排泄物がガス色層質量分光測定法により調べられ、コレステロールからコプロスタノールへの高率の変換が確認されました。これには人間の腸内のバクテリアが関わっており、これらの排泄物が人間のものであることを示しています。この年代のイベリア半島南部の人間となると、ほぼ間違いなくネアンデルタール人でしょう。高率のコプロスタノールからは、ネアンデルタール人の食性がおもに動物資源(肉食)に依存していたことが窺えます。しかし本論文は、5β-シトスタノールも確認されたことから、植物もネアンデルタール人の食資源にとって重要な地位を占めていただろうと指摘し、ネアンデルタール人が雑食性だったという初めての直接的証拠になる、とこの研究の意義を強調しています。

 ただ、この研究に加わっていない研究者たちの中には、慎重な意見も見られます。試料汚染の問題があるので、排泄物で種を特定するのが困難だ、というわけです。ただそれでも、この研究が有望だとも指摘されています。また、DNAの解析を提言している研究者もいます。じっさい、北アメリカ大陸では、1万年以上前の排泄物(関連記事)から人間のDNAが検出されており、5万年前頃であれば、見込はありそうです。本論文はこの研究で提示した手法により更新世における人間の進化とコレステロール代謝のさらなる調査を展望しており、今後の研究の進展が期待されます。


参考文献:
Sistiaga A, Mallol C, Galván B, Summons RE (2014) The Neanderthal Meal: A New Perspective Using Faecal Biomarkers. PLoS ONE 9(6): e101045.
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0101045

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