石田肇「北から移動してきた人たち」『人類の移動誌』第3章「日本へ」第4節

 印東道子編『人類の移動誌』初版第2刷(関連記事)所収の論文です。本論文は、形質人類学の研究成果を中心に、遺伝学的研究成果も引用し、北東アジアに起源のあるオホーツク文化集団がアイヌ民族の成立に影響を及ぼしていたことを主張しています。アイヌ民族は縄文人の形質を最も多く保存していることは間違いないにしても、単純な意味での直系子孫ではない、というわけです。また、オホーツク文化集団が海産物にかなり依存していたことも明らかになりつつあるようです。

 本論文は、縄文時代の起源についても言及しています。現代日本人の起源については、縄文人と弥生文化の担い手との融合によるという「二重構造モデル」が広く知られています。元々の「二重構造モデル」では、縄文人の源郷は東南アジアとされていました。しかし本論文では、縄文人の頭蓋形態の変異量の地域差や、ミトコンドリアDNAの分析結果から、縄文人の起源は北方にある、との見解を提示しています。今後、形質人類学と遺伝学において縄文人の研究が進めば、縄文人の形成について、さらに詳しく判明するでしょう。


参考文献:
石田肇(2014)「北から移動してきた人たち」印東道子編『人類の移動誌』初版第2刷(臨川書店)第3章「日本へ」第4節P170-181

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