松本直子「縄文から弥生へ 農耕民の移動と新しい文化の誕生」『人類の移動誌』第3章「日本へ」第2節

 印東道子編『人類の移動誌』初版第2刷(関連記事)所収の論文です。本論文の特徴は、農耕民の移動を重視していることです。江戸時代への一般的印象から、農耕民は滅多なことでは移動しなかった、との通念が導かれることを懸念しているようです。また、農耕民と狩猟採集民との関係にさまざまな様相があり得たことを指摘しているのも本論文の特徴で、拡大する農耕文化にたいして、狩猟採集文化が吸収されてほとんど痕跡を残さないことも、狩猟採集社会がある程度以上の規模であるため、農耕文化の伝播が停止したり、狩猟採集社会の側が農耕文化から選択して限定的な要素だけを継承したりすることも、想定されています。

 本題の縄文時代から弥生時代への移行については、農耕民の移住を重要な要因としつつ、先住者たる縄文人による積極的導入や融合という過程を経て、朝鮮半島の無文土器文化と似てはいるものの異なる新たな文化が成立したことが、指摘されています。また、日本列島における農耕民の移動の過程で、それぞれの土地の先住者との接触により、地域的な多様性が生まれたことも指摘されています。弥生時代の始まりについては、農耕民の移住者と先住者たる縄文人の主体的関与との双方が重要な役割を果たしただろう、というのが本論文の見解です。


参考文献:
松本直子(2014A)「縄文から弥生へ 農耕民の移動と新しい文化の誕生」印東道子編『人類の移動誌』初版第2刷(臨川書店)第3章「日本へ」第2節P142-154

この記事へのコメント

ポッぺリアン
2014年06月24日 19:26
こんばんは
揚げ足取りみたいで申し訳ないのですが、第二段落冒頭で弥生と縄文が逆になっているように思います
2014年06月24日 21:29
ご指摘ありがとうございます。逆になっておりましたので訂正しました。

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