43万年前頃までさかのぼるネアンデルタール人的特徴(追記有)
ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)的な特徴を有する人骨群についての研究(Arsuaga et al., 2014)が報道されました。この研究では、スペイン北部の通称「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡の人骨群が分析されました。「骨の穴洞窟」遺跡は多くの人骨が発見されていることで有名で、1984年以来継続的に発掘されており、現時点では少なくとも28個体分になる7000近い人類化石が発見されています。この研究で分析対象となったのは43万年前頃の17頭蓋で、その多くはほぼ完全な形態を留めています。また、これらのうち6頭蓋は新たに発見・分析された標本です。
これら17頭蓋の分析で明らかになったのは、43万年前頃の「骨の穴洞窟」人において顔面と前部頭蓋冠にネアンデルタール人特有の派生的な特徴が見られた一方で、神経頭蓋など他の部位では原始的特徴が見られたことです。ネアンデルタール人的な特徴の多くは咀嚼器官と関連している、と指摘されています。「骨の穴洞窟」人の切歯には明確な摩耗が確認され、ネアンデルタール人のように「第三の手」として用いられていたのではないか、と推測されています。「骨の穴洞窟」人の「モザイク状」的な形態(原始的特徴とネアンデルタール人特有の派生的特徴との混在)から、ネアンデルタール人的特徴はある時期に一揃いで出現したのではなく、異なる部位が異なる時期に個別に出現していったのだろう、とこの研究では主張されています。
ただ、この論文の筆頭著者のアルスアガ(Juan-Luis Arsuaga)博士は、43万年前頃の「骨の穴洞窟」人がネアンデルタール人の直接的祖先ではなかった可能性も指摘しています。じっさい、「骨の穴洞窟」の40万年前頃の人骨から抽出されたミトコンドリアDNAは、解析・比較の結果、ネアンデルタール人よりもデニソワ人(種区分未定)に近いことが明らかになっています(関連記事)。形質人類学と遺伝人類学の研究成果からは、「骨の穴洞窟」人の系統樹における位置づけについて、現時点ではさまざまな想定ができそうです。もっと絞り込むためには、さらなる研究の進展が必要となるでしょう。
アルスアガ博士は、とくにネアンデルタール人特有の派生的な特徴に関して、43万年前頃の「骨の穴洞窟」人の形態が、近い年代のヨーロッパの人骨とあまり似ていないことを指摘しています。中期更新世のヨーロッパには、複数の系統の人類が存在していたのではないか、というわけです。中期更新世のヨーロッパの人骨がさらに発見されていけば、それぞれの人類集団の系統関係についても、じょじょに明らかになっていくことでしょう。また、中期更新世のヨーロッパの人類の系統関係を明らかにするには、ヨーロッパだけではなく、西アジアやアフリカの同年代の人骨との比較も必要になってくることでしょう。
参考文献:
Arsuaga JL. et al.(2014): Neandertal roots: Cranial and chronological evidence from Sima de los Huesos. Science, 344, 6190, 1358-1363.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1253958
追記(2014年6月23日)
ナショナルジオグラフィックでも報道されました。
これら17頭蓋の分析で明らかになったのは、43万年前頃の「骨の穴洞窟」人において顔面と前部頭蓋冠にネアンデルタール人特有の派生的な特徴が見られた一方で、神経頭蓋など他の部位では原始的特徴が見られたことです。ネアンデルタール人的な特徴の多くは咀嚼器官と関連している、と指摘されています。「骨の穴洞窟」人の切歯には明確な摩耗が確認され、ネアンデルタール人のように「第三の手」として用いられていたのではないか、と推測されています。「骨の穴洞窟」人の「モザイク状」的な形態(原始的特徴とネアンデルタール人特有の派生的特徴との混在)から、ネアンデルタール人的特徴はある時期に一揃いで出現したのではなく、異なる部位が異なる時期に個別に出現していったのだろう、とこの研究では主張されています。
ただ、この論文の筆頭著者のアルスアガ(Juan-Luis Arsuaga)博士は、43万年前頃の「骨の穴洞窟」人がネアンデルタール人の直接的祖先ではなかった可能性も指摘しています。じっさい、「骨の穴洞窟」の40万年前頃の人骨から抽出されたミトコンドリアDNAは、解析・比較の結果、ネアンデルタール人よりもデニソワ人(種区分未定)に近いことが明らかになっています(関連記事)。形質人類学と遺伝人類学の研究成果からは、「骨の穴洞窟」人の系統樹における位置づけについて、現時点ではさまざまな想定ができそうです。もっと絞り込むためには、さらなる研究の進展が必要となるでしょう。
アルスアガ博士は、とくにネアンデルタール人特有の派生的な特徴に関して、43万年前頃の「骨の穴洞窟」人の形態が、近い年代のヨーロッパの人骨とあまり似ていないことを指摘しています。中期更新世のヨーロッパには、複数の系統の人類が存在していたのではないか、というわけです。中期更新世のヨーロッパの人骨がさらに発見されていけば、それぞれの人類集団の系統関係についても、じょじょに明らかになっていくことでしょう。また、中期更新世のヨーロッパの人類の系統関係を明らかにするには、ヨーロッパだけではなく、西アジアやアフリカの同年代の人骨との比較も必要になってくることでしょう。
参考文献:
Arsuaga JL. et al.(2014): Neandertal roots: Cranial and chronological evidence from Sima de los Huesos. Science, 344, 6190, 1358-1363.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1253958
追記(2014年6月23日)
ナショナルジオグラフィックでも報道されました。
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