人間とチンパンジーとで異なる生殖細胞系突然変異率の性差

 生殖細胞系における突然変異率の性差が、人間とチンパンジーとで異なることを明らかにした研究(Venn et al., 2014)が報道されました。生殖細胞系における突然変異は、進化において重要な役割を果たしています。人間では、生殖細胞系の突然変異は、1世代あたりでオスがメスよりも多くなり、オスは加齢により変異率が上昇します。そのため、子供の誕生時に父親が高齢だと、疾患の危険性が高まる、と指摘されています。この研究では、アフリカ西部のマスクチンパンジー(Pan troglodytes verus)のゲノム配列が決定され、マスクチンパンジーでも生殖細胞系の突然変異率に性差があり、オスには加齢による変異率の上昇のあることが確認されました。ただ、人間の場合よりもさらに、オスとメスの違いが大きくなることが明らかになった、とのことです。

 上記報道では、マスクチンパンジーの精巣における細胞分裂速度は人間と比較してはるかに速いため、精子に突然変異が起こりやすく、結果としてより多くの変異が子孫に受け継がれるのではないか、と指摘されています。上記報道でも言及されていますが、これはチンパンジーが乱交社会を形成していることとも関連しているのでしょう。上記報道では、人間の系統と現生類人猿の系統との分岐が、化石記録からの700万年前頃という想定年代からずっとさかのぼり、1300万年前頃になる可能性も指摘されています。ただ、上記報道でも注意が促されているように、社会構造やそれとも関連しているだろう突然変異率は、過去においては現代と異なっていた可能性もじゅうぶん考えられます。


参考文献:
Venn O. et al.(2014): Strong male bias drives germline mutation in chimpanzees. Science, 344, 6189, 1272-1275.
http://dx.doi.org/10.1126/science.344.6189.1272

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック