小長谷有紀「旅立つ勝者 モンゴル遊牧民の現代的移動」『人類の移動誌』第2章

 印東道子編『人類の移動誌』初版第2刷(関連記事)所収のコラムです。現代のモンゴルにおける移動の様相から、人類史における移動の意味について論じています。比較文化的な内容にもなっており、本書のなかではやや異色な感を受けます。現代のモンゴルでは、市場化の推進や雪害などのために、「大移動」と呼ばれる社会現象が生じ、大都市やその周辺への人口集中現象が見られたそうです。この「大移動」の特徴は、貧困層よりむしろ富裕層の方が移動したことだ、と指摘されています。

 現代日本人のように、比較的居心地のよい所に住みなれてしまうと、腰が重くなって合理的に移動すべき時でも移動を嫌いがちで、流浪や追放などという否定的なイメージさえ用意されているから、旅立ちはあたかも敗者の術のように思いがちだ、と本コラムは指摘します。しかし、そもそも人類にとって新天地を目指すことはじゅうような知的営みであり、移動する者に対するマイナスイメージは、既得領域を保護する側から付与されたものにすぎないとして、移動精神の重要性について学んだ方がよい、と本コラムは提言しています。


参考文献:
小長谷有紀(2014)「旅立つ勝者 モンゴル遊牧民の現代的移動」印東道子編『人類の移動誌』初版第2刷(臨川書店)第2章「アフリカからアジアへ」コラム2 P122-127

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