人類における筋力の低下と認知能力の向上の関係

 今日はもう1本掲載します。人類の進化において、筋力の低下と認知能力の向上をもたらす脳容量の増大は並行的に進んだのではないか、と主張する研究(Bozek et al., 2014)が報道されました。この研究では、人間・チンパンジー・マカク属のサル・マウスの代謝に関わる遺伝子が比較されました。その結果判明したのは、脳の前頭葉皮質領域と骨格筋の代謝に関わる遺伝子においては、人間の進化が例外的に速い、ということです。

 人間の筋力は、チンパンジー・マカク属のサルよりもはっきりと劣ります。これが現代の「便利な環境」に大きく影響された結果なのか否かを調べるため、マカク属のサルに、体を動かす必要がなくストレスに満ち質の悪いものを食べるという、現代人のような生活を2ヶ月続けさせたところ、その筋力に大きな衰えはなかったそうです。そのためこの研究は、人間とチンパンジー・マカク属のサルなどとの筋力の違いは、先天的(遺伝的)要因が大きいとしています。

 初期人類は、その骨格からチンパンジー・マカク属のサルに匹敵する筋力を保持していた可能性が高い、と考えられています。この研究は、人類は認知能力の向上をもたらす脳容量の増大と筋力の低下を並行的に急速に進化させ、結果として総エネルギー消費量の増加を抑えたのではないか、と推測しています。確かに、人間の脳はとくにエネルギーを消費する器官なので、その代償として筋力の低下が生じた、というのはありそうです。

 ただ、それが並行的な進化だったのかというと、今後も検証の必要なところでしょう。骨髄や肉を食べるようになって高カロリーの摂取が可能となると、脳容量を増大させるような変異が生じても致命傷にはならず、集団内に広まる可能性が高くなります。脳容量の増大と認知能力の向上により効率的な採集や狩猟が可能になると、もはや強い筋力が生存には不可欠ではなくなるので、筋力を低下させるような変異が生じた場合、エネルギー消費量が抑えられるという利点からその変異が集団内に広まった、という想定も可能だろうと思います。もし人類の進化でこうした変異が生じたとすると、それはハビリスの出現以降ではないか、と思います。


参考文献:
Bozek K, Wei Y, Yan Z, Liu X, Xiong J, et al. (2014) Exceptional Evolutionary Divergence of Human Muscle and Brain Metabolomes Parallels Human Cognitive and Physical Uniqueness. PLoS Biol 12(5): e1001871.
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pbio.1001871

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