大相撲夏場所千秋楽

 まだ日付は変わっていないのですが、5月26日分の記事として2本掲載しておきます(その一)。14日目の時点で優勝争いは1敗の白鵬関と2敗の稀勢の里関に絞られました。千秋楽では、まず結び前の一番で稀勢の里関と鶴竜関が対戦し、稀勢の里関が予想以上に落ち着いた相撲で勝ち、13勝2敗として優勝に望みをつなぎました。しかし、結びでは白鵬関と日馬富士関が対戦し、白鵬関があっさりと勝って14勝1敗で29回目の優勝を果たしました。

 新横綱の鶴竜関は9勝6敗に終わり(相手の反則による勝利もあるので、実質的には8勝7敗とも言えます)、様々な方面から批判を受けることになりそうです。ただ率直に言って、白鵬関はもちろんのこと、日馬富士関と比較しても、鶴竜関は横綱としての器という点で見劣りする感は否めませんから、今後も横綱としては日馬富士関以上に厳しい道を歩むことになるのではないか、と懸念されます。鶴竜関は先々場所が14勝1敗で優勝決定戦にて敗北、先場所が14勝1敗での優勝で横綱昇進となったのですが、これが鶴竜関にとって初優勝でした。

 鶴竜関は3場所前まで、大関在位10場所で最高成績が11勝(1場所のみ)で、二桁勝利はその他に10勝が2場所あるだけでした。率直に言って、3場所前までの鶴竜関は大関として地味な存在で、いわゆるクンロク大関になりかけていたというか、そう呼ばれても仕方のないくらいの成績でした。それが、突如として目覚めたかのように先々場所と先場所で14勝1敗という好成績を残し、横綱に昇進しました。1回も優勝できなかった横綱双羽黒関の廃業以降、横綱昇進の条件が事実上大関での2場所連続の優勝になっていたことを考えると、甘い基準での昇進と言えるでしょう。

 もっとも、このような甘い基準になったのは鶴竜関の責任ではなく、おそらく、「日本人」横綱の誕生を待望しているだろう日本相撲協会が、まだ優勝・優勝決定戦への進出・14勝以上のいずれも経験のない稀勢の里関を何とか横綱に昇進させようとして、横綱昇進の基準を緩和したのが原因だろう、と私は考えています。確かに稀勢の里関は、大関時代の成績では、3場所前までの鶴竜関を上回っている、と言ってもよいでしょう。しかし、星1つの差だから「準優勝」だとして、稀勢の里関に2回も横綱昇進場所の機会を与えたのは、明らかに日本相撲協会のやり過ぎだと思います。

 日馬富士関の横綱昇進も、直近6場所で一桁勝利が2回あることから、どうかな、とは思ったのですが、いかに横綱昇進の3場所前が8勝7敗とはいえ、2場所連続の全勝優勝となると、横綱昇進も当然と言えるでしょう。しかも、日馬富士関は横綱昇進前の直近2場所での連続全勝優勝の前にも、すでに大関として2回優勝していましたから、この点でも鶴竜関よりも納得のできる横綱昇進です。横綱昇進後の日馬富士関は成績が不安定だとして様々な方面から批判を受けていますが、今場所も含めて横綱在位10場所で休場1場所・一桁勝利2場所・優勝回数2回でそのうち1回は全勝優勝ですから、横綱としてきょくたんに成績が悪いわけでもないと思います。

 鶴竜関の今場所の成績不振は、元々日馬富士関との比較でも横綱としての器で見劣りすることだけではなく、新横綱で色々と行事に駆り出されることも多く、体調を整えるのに苦労したから、という側面も多分にあるように思います。その意味で、来場所以降の鶴竜関には、横綱昇進が間違いだった、と言われないくらいの成績を残すよう期待しています。じっさい、最近の横綱でも新横綱の場所は苦戦していることが多く、日馬富士関は9勝6敗でした。白鵬関は11勝4敗、朝青龍関は10勝5敗です。さらにさかのぼると、千代の富士関は途中休場、北の湖関は11勝4敗ですから、大横綱といえども、新横綱の場所では苦戦している人が多いことがよく分かります。

 ちなみに、現在のような1場所15日・年6場所制になって以降で、新横綱の場所にて優勝したのは、13勝2敗の大鵬関・貴乃花関と全勝の隆の里関です。こうして見ると、今は亡き隆の里関(稀勢の里関の師匠でした)は異例の存在だったのだな、と改めて思います。おそらく、隆の里関は横綱昇進が遅く、横綱昇進の時点で経験豊富でしたし、すでに大関時代に全勝優勝も達成していたので(この時は翌場所の横綱昇進に失敗しています)、落ち着いて場所に臨めたのでしょう。

 横綱昇進の基準をどう設定するのかは難しい問題ですが、直近2場所の成績がきょくたんに重視される現在の基準は疑問の残るところです。横綱の昇進基準は、直近6場所で全場所二桁勝利・合計勝利数72以上・優勝回数2回以上、直近3場所大関で優勝1回以上、直近2場所はいずれも12勝以上くらいでよいのではないか、と私は考えています。現在の横綱昇進基準より長期的な成績の安定を重視する、というわけです。

 この基準を適用すると、年6場所制以降の横綱(柏戸関以降)25人中10人が昇進基準を満たしません。意外なところでは武蔵丸関が惜しいところで昇進基準を満たしていませんでした。まあ、昇進基準が変われば力士の精神状態も変わってくるでしょうから、お遊び程度の検証ですが。この昇進基準では、横綱が少なくなることは間違いないでしょうが、日本相撲協会もマスコミもすぐに「弱い横綱」を批判するのですから、これくらい基準を厳しくしてもよいように思います。

この記事へのコメント

ひろし
2014年05月28日 14:53
長年の相撲ファンですので、少し語らせてもらいます。
今場所は、久しぶりの3人横綱の為、全体的にハイレベルでした。
まあ、新横綱の鶴竜は、6敗とかなり苦戦してましたが、次の場所で挽回して欲しいです。
新横綱で優勝が少ないと知ったのは極最近の事で、意外に少ないとは驚きました。
まあ、日馬富士の様に、最後に5連敗と言う悲劇は避けましたが、それでも今回の鶴竜にも批判が大きかったです。
正直、初優勝で昇進と言う、近年では異例と言うのが、仇となりました。
そもそも、場所前に正直不安がありましたが、まさか二桁以下とは、ちょっと驚きました。
横綱審議会がどれ程、焦ってるか証明されます。
確かに、横綱昇進の基準をどう設定するかは難しいですが、だからと言って、やたらに横綱を増やすのはどうかと思います。
まあ、久しぶりの3人横綱の影響で、17年ぶりに満員御礼という結果を出し、盛り上がったと証明されますが、全体的に難しい所です。
準優勝並みの成績を出した、稀勢の里(13勝2敗)も、来場所の優勝で昇進と言うのも、否定してるそうですし、近年の新横綱デビューの成績を身に受け止めたようです。
個人的に、今後の横綱昇進基準は、かなり厳しくなると思います。少なくとも初優勝で昇進は、辞めて欲しいです(全勝優勝でも;勿論内容しだいですが)。例えば、昇進前に2桁(11~12勝以上)を数場所(3~4場所位)続けるなど、ある程度の経験を積んでから、昇進した方が良いと思います。
2014年05月28日 20:30
稀勢の里関の来場所での横綱昇進は基本的にはない、と相撲協会の幹部も認めましたね。これはやや意外でした。ただ、全勝優勝ならば・・・といった含みを持たせているようですが。

今後、横綱の昇進基準が厳しくなることについては、私も賛成です。

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