赤澤威「ネアンデルタールからクロマニョン人への交替劇」『人類の移動誌』第2章「アフリカからアジアへ」

 印東道子編『人類の移動誌』初版第2刷(関連記事)所収の論文です。本論文は考古学的証拠より、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)から現生人類(ホモ=サピエンス)への「交替劇」の要因を、適応行動の違いに求めています。基本的には一次加工の石器しか製作しなかったネアンデルタール人には石器の使用場面までを考慮した石器製作にさいしての計画性はなく、ヨーロッパに進出した現生人類にはそれがあった、と本論文は指摘します。じゅうらいの知識・技術をそのまま活かせる既知環境を求めて盛衰を繰り返したネアンデルタール人にたいして、さまざまな環境へと進出し、その先々で新技術の開発に取り組んでいった現生人類との違いが、「交替劇」の要因だった、というわけです。

 本論文は、そうしたネアンデルタール人と現生人類との違いが何に起因するのか、というところまでは論じていません。それが先天的(遺伝的)な資質の違いに由来するのか、それとも集団規模や他集団との交流の頻度といった人口密度など社会構造の違いに起因するのか、まだ確定したとは言い難い状況でしょう。シャテルペロニアンやウルツィアンといったヨーロッパにおける中部旧石器時代~上部旧石器時代移行期の文化の担い手がネアンデルタール人なのか、近年では疑念も呈されていますが、もしそれらの担い手がネアンデルタール人だとしたら、ネアンデルタール人にも現生人類と近い計画性を可能とする認識能力が存在した可能性はあるでしょう。


参考文献:
赤澤威(2014)「ネアンデルタールからクロマニョン人への交替劇」印東道子編『人類の移動誌』初版第2刷(臨川書店)第2章「アフリカからアジアへ」第1節P56-68

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