海部陽介「アフリカで誕生した人類の長い旅」『人類の移動誌』第1章「人類の移動を考える」第1節

 印東道子編『人類の移動誌』初版第2刷(関連記事)所収の論文です。本論文は、猿人→原人→旧人→新人という図式で人類進化史を把握しています。私はこうした把握に以前より疑問を抱いているのですが、専門家の見解だけに、自分もこの問題についてもっと考えなければならないかな、とは思います。本論文は「猿人」についてはわずかに言及するだけで、「原人」・「旧人」についても言及は少なく、おもに「新人(現生人類、ホモ=サピエンス)」の世界各地への拡散を概観しています。

 「原人」の拡散について本書は、植物食の傾向の強い動物は植生帯に分布域を制限されるのにたいして、肉食動物はそれほど獲物となる動物種を選ばないので分布域がより広い傾向にあると指摘し、「原人」が出アフリカを果たした背景として、すでに肉食を行なっていたことと関連づけています。「旧人」については、世界各地の「旧人」がどのような系統関係にあるのか不明だとして、慎重な姿勢を見せています。現時点での証拠からは、妥当な判断と言えるでしょう。

 「新人」の拡散については、「原人」・「旧人」段階よりもはるかに広範な地域へと「新人」が拡散したことが強調されています。また、「新人」の拡散の特徴として、身体の構造の進化による新たな環境への適応ではなく、基本的に文化的創造によって新たな環境へ進出したことが指摘され、新たな文化・技術の創造力こそ、「新人」の世界への急速な拡散の要因だったのではないか、との見解が提示されています。本論文は短い分量のなかで、人類の世界への拡散について簡潔に概観しており、手軽に人類拡散の様相について知るのに適していると思います。


参考文献:
海部陽介(2014A)「アフリカで誕生した人類の長い旅」印東道子編『人類の移動誌』初版第2刷(臨川書店)第1章「人類の移動を考える」第1節P10-24

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