現代ヨーロッパ人に多く見られるネアンデルタール人と共通する遺伝子
今日はもう1本掲載します。ネアンデルタール人と共通する脂質代謝に関わる遺伝子の異型の地理的分布に関する研究(Khrameeva et al., 2014)が報道されました。この研究では、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)と現生人類(ホモ=サピエンス)の、脂質異化作用過程(lipid catabolic process、省略してLCP)に関わる遺伝子が比較されています。比較対象となった現生人類集団は、アフリカ系がアメリカ合衆国南西部のアフリカ系の人々・アフリカ東部ケニアのルイヤ人・アフリカ西部ナイジェリアのヨルバ人の3集団、東アジア系が北京の漢人・中国南部の漢人・日本人の3集団、ヨーロッパ系がフィンランド・ブリテン島など5集団です。
現生人類集団においてゲノム規模では、アジア系とヨーロッパ系でネアンデルタール人のような遺伝的痕跡(Neanderthal-like sites、省略してNLS)の頻度に大きな違いはありません。一方アフリカ系では、ルイヤ人・ヨルバ人においてはゲノム規模ではNLSがほぼ見当たらず、アメリカ合衆国南西部のアフリカ系に、アジア系とヨーロッパ系よりもずっと低頻度ながら、NLSが確認されています。おそらくこれは、アメリカ合衆国ではアフリカ系とヨーロッパ系との混血がある程度起きたからなのでしょう。
この研究が注目しているのは、ゲノム規模ではアジア系とヨーロッパ系でNLSの頻度に大きな違いはないのに、LCPに関わる遺伝子では、アジア系よりもヨーロッパ系の方で、NLSの頻度がはるかに高い、ということです。アフリカ系において、LCPに関わる遺伝子のNLSは、アジア系よりもずっと低頻度ながらルイヤ人にはわずかに、アメリカ合衆国南西部のアフリカ系にはアジア系よりもやや劣る程度に見られ、ヨルバ人には見られません。
LCPに関わる遺伝子は脂質濃度・酵素と関連しており、チンパンジーとデニソワ人(種区分は未定です)の遺伝子配列においてはそれぞれ独自の派生的変異が見られることからも、LCPに関わる遺伝子のNLSはヨーロッパにおいて地域的(局所的)な正淘汰をもたらしたのではないか、とこの研究では指摘されています。ただこの研究では、ヨーロッパ系現生人類集団に見られるLCPに関わる遺伝子のNLS頻度の高さは、交雑によりネアンデルタール人から現生人類へともたらされた結果だ、との解釈以外の可能性も想定しています。
現生人類の系統とネアンデルタール人の系統がアフリカ内において分岐した時点で、すでに両系統はLCPに関わる遺伝子にNLSを有しており、それがヨーロッパにおいて人類に適応的優位性をもたらすものであったため、ヨーロッパ系現生人類集団において頻度が高まり、アフリカでは遺伝的浮動などにより低頻度になったのではないか、というわけです。ルイヤ人には低頻度ながらLCPに関わる遺伝子のNLSが見られることからも、その可能性はありそうです。ただ、この問題の解決のためにはさらなる検証が必要だ、とこの研究では指摘されています。
この論文の著者の一人であるKhaitovich博士は、脂質代謝と関連して、ネアンデルタール人の遺伝的異型が現生人類の脳構造を変えたかもしれない、と指摘しています。すでに現代人とネアンデルタール人のゲノム解読は完了していますから(ネアンデルタール人については、まだ少ないのですが)、今後は、ネアンデルタール人が生存していた頃の現生人類のゲノム解読の成功が期待されます。この研究で提起された問題は今後検証が進みそうで、どのような結果が提示されるのか、楽しみです。
参考文献:
Khrameeva EE. et al.(2014): Neanderthal ancestry drives evolution of lipid catabolism in contemporary Europeans. Nature Communications, 5, 3584.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms4584
現生人類集団においてゲノム規模では、アジア系とヨーロッパ系でネアンデルタール人のような遺伝的痕跡(Neanderthal-like sites、省略してNLS)の頻度に大きな違いはありません。一方アフリカ系では、ルイヤ人・ヨルバ人においてはゲノム規模ではNLSがほぼ見当たらず、アメリカ合衆国南西部のアフリカ系に、アジア系とヨーロッパ系よりもずっと低頻度ながら、NLSが確認されています。おそらくこれは、アメリカ合衆国ではアフリカ系とヨーロッパ系との混血がある程度起きたからなのでしょう。
この研究が注目しているのは、ゲノム規模ではアジア系とヨーロッパ系でNLSの頻度に大きな違いはないのに、LCPに関わる遺伝子では、アジア系よりもヨーロッパ系の方で、NLSの頻度がはるかに高い、ということです。アフリカ系において、LCPに関わる遺伝子のNLSは、アジア系よりもずっと低頻度ながらルイヤ人にはわずかに、アメリカ合衆国南西部のアフリカ系にはアジア系よりもやや劣る程度に見られ、ヨルバ人には見られません。
LCPに関わる遺伝子は脂質濃度・酵素と関連しており、チンパンジーとデニソワ人(種区分は未定です)の遺伝子配列においてはそれぞれ独自の派生的変異が見られることからも、LCPに関わる遺伝子のNLSはヨーロッパにおいて地域的(局所的)な正淘汰をもたらしたのではないか、とこの研究では指摘されています。ただこの研究では、ヨーロッパ系現生人類集団に見られるLCPに関わる遺伝子のNLS頻度の高さは、交雑によりネアンデルタール人から現生人類へともたらされた結果だ、との解釈以外の可能性も想定しています。
現生人類の系統とネアンデルタール人の系統がアフリカ内において分岐した時点で、すでに両系統はLCPに関わる遺伝子にNLSを有しており、それがヨーロッパにおいて人類に適応的優位性をもたらすものであったため、ヨーロッパ系現生人類集団において頻度が高まり、アフリカでは遺伝的浮動などにより低頻度になったのではないか、というわけです。ルイヤ人には低頻度ながらLCPに関わる遺伝子のNLSが見られることからも、その可能性はありそうです。ただ、この問題の解決のためにはさらなる検証が必要だ、とこの研究では指摘されています。
この論文の著者の一人であるKhaitovich博士は、脂質代謝と関連して、ネアンデルタール人の遺伝的異型が現生人類の脳構造を変えたかもしれない、と指摘しています。すでに現代人とネアンデルタール人のゲノム解読は完了していますから(ネアンデルタール人については、まだ少ないのですが)、今後は、ネアンデルタール人が生存していた頃の現生人類のゲノム解読の成功が期待されます。この研究で提起された問題は今後検証が進みそうで、どのような結果が提示されるのか、楽しみです。
参考文献:
Khrameeva EE. et al.(2014): Neanderthal ancestry drives evolution of lipid catabolism in contemporary Europeans. Nature Communications, 5, 3584.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms4584
この記事へのコメント