植物の栽培化と動物の家畜化の起源についての近年の見解

 今日はもう1本掲載します。『米国科学アカデミー紀要』の今週号(第111巻17号)には、植物の栽培と動物の家畜化についての特集が掲載されています。まだ総説(Larson et al., 2014)をざっと眺めただけですが、現時点での考古学・遺伝学などによる学際的研究成果が概観されており、農耕と牧畜の起源について近年の見解を知るうえでたいへん有益でしょう。図1および図2を見ると、世界各地でいつ植物の栽培と動物の家畜化が始まったのか、分かりやすいと思います。

 現在では一般にも広く知られつつあるように思うのですが、植物の栽培化と動物の家畜化は、世界の複数の核となる地域で、異なる年代に異なる種を対象として進行したようです。その核となる地域から周辺地域へと、農耕・牧畜は拡散していったのでしょう。そのさいに人間の移住が決定的な役割を果たしたのか、それとも先住民が主体的に農耕・牧畜を取り入れていったのかは、各地域・年代により様相が異なっていたのではないか、と思われます。

 この総説の図1では、植物の栽培・動物の家畜化が独自に起きた地域を年代により区分しています。一つは更新世後期~完新世初期(12000~8200年前頃)、もう一つは完新世中期(8200~4200年前頃)です。完新世初期に植物の栽培・動物の家畜化が独自に起きた地域として、南西アジア(いわゆる肥沃な三日月地帯)・メソアメリカ・南アメリカ大陸北西部・華北が挙げられています。東日本は完新世中期に植物の栽培・動物の家畜化が独自に起きた地域とされています。総説ではとくに指摘はありませんでしたが(総説をざっと読んだだけなので、見落としているかもしれませんが)、図2を見ると、苧麻(カラムシ)の栽培のことなのかな、と思います(栽培化の年代は遅くとも5300年前頃までさかのぼります)。

 図2では、世界各地で植物の栽培化・動物の家畜化がいつ頃独自に始まったのか、各種ごとにまとめられています。ここでは、栽培・家畜化前の利用期間またはそこへといたる試行錯誤の期間、形質面で栽培・家畜化の見られない植物・動物を管理している期間、栽培・家畜化に関連する形質面の変化の見られる期間に区分されています。完新世初期には、植物の栽培化はユーラシア大陸でもアメリカ大陸でも始まっていたものの、動物の家畜化は南西アジアに限定されている、と指摘されています。もっとも、東アジアにおける豚の家畜化は、ぎりぎり完新世初期に始まっている、と言えそうですが、現時点での証拠では、南西アジアにおいて動物の家畜化(それも羊・山羊・牛・豚など複数種で)が世界で最も早く生じたのは否定できないでしょう。

 また、この総説で取り上げられた種においては、植物の栽培化・動物の家畜化の多くは完新世初期ではなく完新世中期に始まったことも指摘されています。全体としてみると、南西アジアでの植物の栽培化・動物の家畜化が早く、アメリカ大陸ではいくつかの植物種が散発的に完新世初期に栽培化されているものの、他の地域は南西アジアよりも植物の栽培化・動物の家畜化が遅い、と言えるでしょう。もっとも、西アジアは古くから発掘・研究の進んだ地域ですので、今後他の地域での発掘・研究が進めば、その差は縮まるか逆転するのかもしれません。日本では関心が高いだろう米の栽培化については、ジャポニカ米の利用は10000年前頃に始まり、8000年前頃に形質面で栽培化の見られない管理が始まり、栽培化に関連する形質面の変化が見られるようになるのは7600年前頃とされています。


参考文献:
Larson G. et al.(2014): Current perspectives and the future of domestication studies. PNAS, 111, 17, 6139–6146.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1323964111

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