根強いフロレシエンシス新種説への懐疑論

 今日はもう1本掲載します。インドネシア領フローレス島のリアンブア洞窟で2003年に発見された更新世の人骨群(発表は2004年)を、人類進化系統樹においてどう位置づけるのか、議論が続いています。当初は、この人骨群が人類の新種(ホモ=フロレシエンシス)なのか、病変の現生人類(ホモ=サピエンス)なのか、ということがおもに議論されていました。最近では新種説がおおむね認められており、フロレシエンシスの起源はどの系統の人類なのか、という議論に注目が集まっている、と言ってもよい状況でしょう。

 しかし、病変現生人類説への支持も一部?で根強いようで、2014年度アメリカ自然人類学会総会(関連記事)でも、そうした見解がいくつか報告されています。そのうちの一つ(Henneberg, and Eckhardt., 2014)は、新種説で正基準標本とされているLB1人骨に関する未刊行データを提示し、LB1が進化的に新たな系統ではないことを指摘しています。この報告によると、LB1の頭蓋顔面の非対称と不均衡からだけではなく、LB1の頭蓋の後頭前頭の周囲のデータからも、LB1は小柄な人類集団の発達異常な個体に合致する脳サイズを有していることが示された、とのことです。この報告の要約はPDFファイルで読めます(P140)。

 LB1の個々の特徴のなかには、発達異常の現生人類の範囲に収まるものもあるだろう、とは思います。ただ、頭蓋だけではなく手首や身体の全体的な比率など、総合的なLB1の形態的特徴が病変現生人類で説明できるのかというと、新種説の研究者のほとんどは納得しないのではないか、と思います。LB1とホモ=エレクトスとの類似性が、フロレシエンシスの発表当初から指摘されていました。その後、LB1の原始的特徴が注目され、フロレシエンシスの祖先としてエレクトスよりもさらに原始的な集団も想定されるようになりました。

 現時点で改めて整理すると、更新世フローレス島の人骨群について、新種説と病変現生人類説があり、新種説では、その祖先集団としてエレクトスを想定する見解ともっと原始的な人類集団を想定する見解が提示されています。私はこの問題の専門家ではありませんが、発表当初よりずっと追ってきました。現時点では、更新世フローレス島の人骨群の直接の祖先はジャワ島のエレクトスであり、注目されているLB1の原始的特徴は、島嶼化による小型化に伴う進化だろう、というのが最も説得力のある見解になるのではないか、と思います。


参考文献:
Henneberg M, and Eckhardt RB.(2014): The LB1 individual from Flores is a result of disturbed evolutionary developmental homeostasis. The 83th Annual Meeting of the AAPA.

この記事へのコメント

H.P.Lたたき
2014年10月03日 18:59
個人的には新種説の中でも、
よりラディカルなものと言える「ハビリス系起源説」を支持しております。


フロレシエンシスの身体的特徴のうち、頭部はホモ属に類する形質を示す一方で、四肢や驅幹部についてはハビリスやアウストラロピテクスを思わせる特徴が多く見られるようです。

・・・・それでは上記の形質特徴のうち、いずれをより重視してフロレシエンシスの系統関係を論じたら良いのでしょうか?

私も専門家ではなく以下は私見に過ぎないのですが、
かつて日経サイエンス誌で記事を読んだ感触からすると、四肢や驅幹部に見られる特徴の方がより中立的指標になるように思われます。
2014年10月03日 21:13
ハビリス系起源説は、おそらく現時点では最有力視されていると思います。私も以前はそうでした。現在エレクトス起源説を支持しているのは、日本の研究者の影響を強く受けているからだと思います。

フロレシエンシスの形態学的特徴の評価は、ご指摘のように複数の系統の特徴が混在しているとも解釈できそうなので、難しいところですね。私は、エレクトスとの類似という見解を重視しているのですが、さほど自信はありません。

フロレシエンシスは100万年以上前からフローレス島に存在して進化し続けてきたと思われるだけに、100万年前頃や80万年前頃の人骨が発見されたら、もっと絞り込めそうではありますが。

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