ネアンデルタール人の遺伝的多様性
ネアンデルタール人の遺伝的多様性についての研究(Castellano et al., 2014)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。この研究では、スペインとクロアチアのネアンデルタール人2人のタンパク質をコードする17367の遺伝子のDNA配列が決定され、最近決定された南シベリアのネアンデルタール人のゲノム配列(関連記事)と共に分析されました。これらネアンデルタール人の遺伝子は、アフリカ・ヨーロッパ・アジアの現代人と比較されました。
その結果明らかになったのは、現代人と比較してネアンデルタール人の遺伝的多様性が著しく低く(現代アフリカ人との比較では4分の1、現代ヨーロッパ・アジア人との比較では3分の1程度)、各集団は孤立していた、ということです。この研究では、ネアンデルタール人は長期に亘って小規模な集団だったのではないか、と推測されています。ネアンデルタール人の遺伝的多様性の低さは、ミトコンドリアDNAの比較でも指摘されており、広範囲なネアンデルタール人を対象とした場合では現生人類(ホモ=サピエンス)の3分の1程度と推定されていました(関連記事)。また、48000年前以降の西ヨーロッパのネアンデルタール人は、東ヨーロッパや48000年前よりも古い年代のヨーロッパのネアンデルタール人と比較して、ミトコンドリアの遺伝的多様性が低い、とも推定されていました(関連記事)。
この研究では、ネアンデルタール人と現代人の表現型の差異の基礎となるかもしれないアミノ酸置換も特定されています。その結果、骨格形態に関わる遺伝子は、ネアンデルタール人へといたる系統において、現生人類や他の絶滅人類の共通祖先の系統においてよりも多く変化した一方で、行動と色素に関わる遺伝子は、現生人類の系統においてより多く変化したことが判明した、とのことです。この研究に関わったスヴァンテ=ペーボ博士は、現代人に見られる多動や攻撃性に関わる遺伝子がネアンデルタール人には欠けていた可能性を強調しているそうです。形態面での遺伝子の差異は、腰の湾曲に関するものとのことで、ネアンデルタール人は現生人類やデニソワ人(種区分)や初期ホモ属と比較すると、腰が曲がり気味だった、とのことです。
以上、この研究と報道についてざっと見てきましたが、たいへん興味深い研究だと思います。ネアンデルタール人の集団は規模が小さく、孤立していた可能性が高いことを想定していた研究者は多いでしょうが、この研究はそうした想定の根拠となり得るでしょう。ネアンデルタール人絶滅(非アフリカ系現代人には、わずかながらネアンデルタール人の遺伝子が継承されている可能性が高そうです)の根本的要因は、人口が少なく各集団が孤立気味だった場合が多かったことにあるのでしょう。シベリア南部のネアンデルタール人集団は数世代にわたって近親婚が一般的だったのではないか、と推測されていますが(関連記事)、それはかなりのネアンデルタール人集団に当てはまるのかもしれません。ただ、あまり特殊化していない西アジアのネアンデルタール人集団は、もっと遺伝的多様性が高かったかもしれません。しかし、西アジアのネアンデルタール人となると、DNA解析が難しそうではあります。
興味深いのは、ネアンデルタール人が、現生人類のみならず他のホモ属と比較して、腰が曲がり気味だったかもしれない、ということです。20世紀前半のネアンデルタール人復元図は、前かがみの姿勢など原始的(と当時考えられていた)特徴が強調されていました。その後、ネアンデルタール人骨格の見直しにより、20世紀前半のネアンデルタール人復元図は批判されるようになりましたが、この研究により、20世紀前半の復元図がそのまま蘇ることはないにしても、ネアンデルタール人の骨格の大規模な見直しを促し、ネアンデルタール人の復元図が今後また変わっていく可能性はあるのかもしれません。
参考文献:
Castellano S. et al.(2014): Patterns of coding variation in the complete exomes of three Neandertals. PNAS, 111, 18, 6666–6671.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1405138111
その結果明らかになったのは、現代人と比較してネアンデルタール人の遺伝的多様性が著しく低く(現代アフリカ人との比較では4分の1、現代ヨーロッパ・アジア人との比較では3分の1程度)、各集団は孤立していた、ということです。この研究では、ネアンデルタール人は長期に亘って小規模な集団だったのではないか、と推測されています。ネアンデルタール人の遺伝的多様性の低さは、ミトコンドリアDNAの比較でも指摘されており、広範囲なネアンデルタール人を対象とした場合では現生人類(ホモ=サピエンス)の3分の1程度と推定されていました(関連記事)。また、48000年前以降の西ヨーロッパのネアンデルタール人は、東ヨーロッパや48000年前よりも古い年代のヨーロッパのネアンデルタール人と比較して、ミトコンドリアの遺伝的多様性が低い、とも推定されていました(関連記事)。
この研究では、ネアンデルタール人と現代人の表現型の差異の基礎となるかもしれないアミノ酸置換も特定されています。その結果、骨格形態に関わる遺伝子は、ネアンデルタール人へといたる系統において、現生人類や他の絶滅人類の共通祖先の系統においてよりも多く変化した一方で、行動と色素に関わる遺伝子は、現生人類の系統においてより多く変化したことが判明した、とのことです。この研究に関わったスヴァンテ=ペーボ博士は、現代人に見られる多動や攻撃性に関わる遺伝子がネアンデルタール人には欠けていた可能性を強調しているそうです。形態面での遺伝子の差異は、腰の湾曲に関するものとのことで、ネアンデルタール人は現生人類やデニソワ人(種区分)や初期ホモ属と比較すると、腰が曲がり気味だった、とのことです。
以上、この研究と報道についてざっと見てきましたが、たいへん興味深い研究だと思います。ネアンデルタール人の集団は規模が小さく、孤立していた可能性が高いことを想定していた研究者は多いでしょうが、この研究はそうした想定の根拠となり得るでしょう。ネアンデルタール人絶滅(非アフリカ系現代人には、わずかながらネアンデルタール人の遺伝子が継承されている可能性が高そうです)の根本的要因は、人口が少なく各集団が孤立気味だった場合が多かったことにあるのでしょう。シベリア南部のネアンデルタール人集団は数世代にわたって近親婚が一般的だったのではないか、と推測されていますが(関連記事)、それはかなりのネアンデルタール人集団に当てはまるのかもしれません。ただ、あまり特殊化していない西アジアのネアンデルタール人集団は、もっと遺伝的多様性が高かったかもしれません。しかし、西アジアのネアンデルタール人となると、DNA解析が難しそうではあります。
興味深いのは、ネアンデルタール人が、現生人類のみならず他のホモ属と比較して、腰が曲がり気味だったかもしれない、ということです。20世紀前半のネアンデルタール人復元図は、前かがみの姿勢など原始的(と当時考えられていた)特徴が強調されていました。その後、ネアンデルタール人骨格の見直しにより、20世紀前半のネアンデルタール人復元図は批判されるようになりましたが、この研究により、20世紀前半の復元図がそのまま蘇ることはないにしても、ネアンデルタール人の骨格の大規模な見直しを促し、ネアンデルタール人の復元図が今後また変わっていく可能性はあるのかもしれません。
参考文献:
Castellano S. et al.(2014): Patterns of coding variation in the complete exomes of three Neandertals. PNAS, 111, 18, 6666–6671.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1405138111
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