『人類進化700万年の物語』

 今日は3本掲載します(その二)。チップ=ウォルター著、長野敬・赤松眞紀訳で、2014年4月に青土社より刊行されました。原書の刊行は2013年です。表題からは、人類の進化を年代順に物語風に解説した一冊なのかと予想していたのですが、そうした側面もあるものの、基本的には予想とは異なる構成になっていました。本書は、ネオテニー・脳と学習・進化心理学・言語・性選択・創造力・認知能力といった主題ごとに人類進化を考察する、という性格の強い一冊になっています。科学ジャーナリストの執筆した一般向け書籍としては、やや分かりにくい構成になってしまった感が否めません。

 「キロカロリー」とすべきところが「カロリー」となっており(P166)、クロマニヨン人の祖先が50万年前(本書の全体的な論旨からすると、明らかに5万年前の間違いでしょう)にアフリカから移動を始めたとあるなど(P196)、原文の時点で間違っていたのか翻訳の時点で間違ったのか分かりませんが、校正不足も見られます。トバ大噴火の影響を強く見積もる見解にも、疑問が残ります。ある程度予備知識がないと、本書を読んでも人類進化の全体像をつかみにくいでしょうから、初心者向きではないと思います。

 まあ、本書はそもそも初心者向けとして企画されたのではなく、私が読む前に表題から勝手に思い込んだだけなのかもしれませんが。ただ、初心者向けではないとはいっても、原書は昨年の刊行にも関わらず、話題を呼んだ近年の研究成果がじゅうぶん取り入れられているわけでもないので、あるていど人類進化について把握している人に自信をもって勧められる、というほどの出来でもないように思います。面白くないとか役に立たないとかいうことはなく、色々と面白い話題を取り上げてはいるのですが、全体的に微妙な感は否めません。

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