アメリカ大陸への進出の前にベーリンジアに留まった人類

 遺伝学や古環境学の研究成果から、人類はアメリカ大陸へと進出する前にベーリンジア(ベーリング陸橋)に留まっていた、と指摘した見解(Hoffecker et al., 2014)が報道されました。人類がアメリカ大陸に侵出する前の、最終氷期最盛期(この見解では、放射性炭素年代測定法による較正年代で28000~18000年前とされています)を含む寒冷期にベーリンジアに1万年程度留まっていたのではないか、との見解(ベーリンジア潜伏モデル)は以前から主張されています(関連記事)。しかし、海水面の上昇により、ベーリンジアの多くは現在では水没しているため、考古学的証拠が乏しいことも否定できません。この見解では、遺伝学や古環境学の研究成果から、ベーリンジア潜伏モデルが改めて主張されています。

 以前の主流的見解では、最終氷期最盛期を含む寒冷期には、ベーリンジアは均一なツンドラ環境だと想定されていました。しかし、古環境学の研究の進展により、ベーリング海やアラスカの湿原のコア調査で花粉・植物・昆虫化石が発見され、最終氷期最盛期を含む寒冷期のベーリンジアには不毛の地ではなく低木なども存在し、ベーリンジアは人類や他の生物にとっての避難所の点在する地域だった、と明らかになっています。当時、ベーリンジアの多く、とくに低地ベーリンジアの夏の平均気温は、現在とほぼ同じかやや低い程度だった、と推測されています。ベーリンジア(の現在でも水没していない地域)が現在のようにツンドラ環境となったのは、最終氷期最盛期を過ぎた後のことです。

 この見解では、アメリカ大陸先住民特有の遺伝子の分布や、アメリカ大陸先住民とその祖先集団たる東アジア集団との遺伝的違いを説明するのに適しているのは、ベーリンジア潜伏モデルである、と指摘されています。古環境学と遺伝学の研究成果からは、ベーリンジア潜伏モデルが最も説得的である、というわけですが、この見解では、考古学的証拠の乏しいことも指摘されています。ベーリンジア潜伏モデルの証明のためには、今後、水中考古学の研究の進展が必要になるでしょう。


参考文献:
Hoffecker JF, Elias SA, and O'Rourke DH.(2014): Out of Beringia? Science, 343, 6174, 979-980.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1250768

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