ネアンデルタール人からもたらされた免疫遺伝子?
今日はもう1本掲載します。人間の免疫に関わる受容体についての研究(Temme et al., 2014)が報道されました。ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)と現生人類(ホモ=サピエンス)との交雑の新たな証拠を提示する研究ということで論文を読んでみたのですが、私が免疫に関して無知なために、率直に言って理解できないところが多々ありました。ただ、重要な研究ではありそうなので、上記の日本語報道に依拠し、理解できた範囲で以下に短く記しておきます。
この研究では、HLA(ヒト白血球型抗原)の新たな受容体が発見され、それを指定している遺伝子コードの頻度が、現代の各地域集団間で比較されました。その結果、ヨーロッパではこの受容体を有する人々の割合が高い一方で、サハラ砂漠以南のアフリカではその割合が低いことが分かりました。またネアンデルタール人では、この新たな受容体を指定する遺伝子コードの塩基配列が現代人とほぼ同一であることが明らかになりました。
このことから、アフリカ起源の初期現生人類はこの新たに発見された受容体を持っておらず、現生人類はネアンデルタール人との交雑によりそれを獲得したのではないか、との仮説をこの研究は提示しています。現生人類がネアンデルタール人との交雑により免疫系の有益と思われる遺伝子を得たとする研究はすでに一般層にも伝えられており(関連記事)、その意味でこの研究には大きな驚きはありませんが、それでも意義深いものとは言えるでしょう。
ただ、内容をよく理解できなかったことを承知のうえで疑問を述べると、この新たに発見された受容体を指定する遺伝子コードは西アジアでも頻度が高いので、この研究が示唆するように交雑によりネアンデルタール人から現生人類へともたらされたとすると、両者の交雑の場は、この研究が想定するヨーロッパよりも西アジアの方がありそうだと思います。そうすると、同じくネアンデルタール人の遺伝子を継承していたとされる、東アジアや南アメリカ大陸の人々の間では頻度が低いのも気になるところです。しかも、北アメリカ大陸の一部ではかなりの高頻度となっています。
現代のアメリカ大陸先住民は、程度の差こそあれヨーロッパ人の遺伝子を継承しているでしょうから、南北でこれだけの頻度の差があるのは注目されます。これは、アメリカ大陸先住民の遺伝的起源に一定以上の割合で西ユーラシアの集団が寄与している、との研究(関連記事)とも関わってくるのでしょうか。それでも、北アメリカ大陸の一部と南アメリカ大陸および東アジアとの頻度の差は気になるところですが、瓶首効果などによる遺伝的浮動の結果と単純に考えてよいのでしょうか。
ただそう考えると、この新たに発見された受容体を指定する遺伝子コードの基本的な塩基配列は、元々ネアンデルタール人と現生人類の共通祖先の時点で人類に存在するもので、初期現生人類の間では低頻度でしたが、瓶首効果などによる遺伝的浮動の結果として現在のような頻度分布状況が生じました(同様の作用でネアンデルタール人の間では高頻度になりました)、とも解釈できそうです。もっとも、こうした想定はこの研究をよく理解できていない私の大間違い・妄想かもしれません。
参考文献:
Temme S. et al.(2014): A Novel Family of Human Leukocyte Antigen Class II Receptors May Have Its Origin in Archaic Human Species. Journal of Biological Chemistry, 289, 2, 639-653.
http://dx.doi.org/10.1074/jbc.M113.515767
この研究では、HLA(ヒト白血球型抗原)の新たな受容体が発見され、それを指定している遺伝子コードの頻度が、現代の各地域集団間で比較されました。その結果、ヨーロッパではこの受容体を有する人々の割合が高い一方で、サハラ砂漠以南のアフリカではその割合が低いことが分かりました。またネアンデルタール人では、この新たな受容体を指定する遺伝子コードの塩基配列が現代人とほぼ同一であることが明らかになりました。
このことから、アフリカ起源の初期現生人類はこの新たに発見された受容体を持っておらず、現生人類はネアンデルタール人との交雑によりそれを獲得したのではないか、との仮説をこの研究は提示しています。現生人類がネアンデルタール人との交雑により免疫系の有益と思われる遺伝子を得たとする研究はすでに一般層にも伝えられており(関連記事)、その意味でこの研究には大きな驚きはありませんが、それでも意義深いものとは言えるでしょう。
ただ、内容をよく理解できなかったことを承知のうえで疑問を述べると、この新たに発見された受容体を指定する遺伝子コードは西アジアでも頻度が高いので、この研究が示唆するように交雑によりネアンデルタール人から現生人類へともたらされたとすると、両者の交雑の場は、この研究が想定するヨーロッパよりも西アジアの方がありそうだと思います。そうすると、同じくネアンデルタール人の遺伝子を継承していたとされる、東アジアや南アメリカ大陸の人々の間では頻度が低いのも気になるところです。しかも、北アメリカ大陸の一部ではかなりの高頻度となっています。
現代のアメリカ大陸先住民は、程度の差こそあれヨーロッパ人の遺伝子を継承しているでしょうから、南北でこれだけの頻度の差があるのは注目されます。これは、アメリカ大陸先住民の遺伝的起源に一定以上の割合で西ユーラシアの集団が寄与している、との研究(関連記事)とも関わってくるのでしょうか。それでも、北アメリカ大陸の一部と南アメリカ大陸および東アジアとの頻度の差は気になるところですが、瓶首効果などによる遺伝的浮動の結果と単純に考えてよいのでしょうか。
ただそう考えると、この新たに発見された受容体を指定する遺伝子コードの基本的な塩基配列は、元々ネアンデルタール人と現生人類の共通祖先の時点で人類に存在するもので、初期現生人類の間では低頻度でしたが、瓶首効果などによる遺伝的浮動の結果として現在のような頻度分布状況が生じました(同様の作用でネアンデルタール人の間では高頻度になりました)、とも解釈できそうです。もっとも、こうした想定はこの研究をよく理解できていない私の大間違い・妄想かもしれません。
参考文献:
Temme S. et al.(2014): A Novel Family of Human Leukocyte Antigen Class II Receptors May Have Its Origin in Archaic Human Species. Journal of Biological Chemistry, 289, 2, 639-653.
http://dx.doi.org/10.1074/jbc.M113.515767
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