ネアンデルタール人からもたらされた糖尿病の危険性を高める遺伝子
まだ日付は変わっていないのですが、12月27日分の記事として掲載しておきます。糖尿病の危険性を高める遺伝子についての研究(The SIGMA Type 2 Diabetes Consortium., 2014)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。この研究は、8214人のラテンアメリカ人の一塩基多型(SNPs)920万を分析し、さらに過去の調査結果も加えて検証しました。
その結果、2型糖尿病の危険性を高める新たな遺伝子座として“SLC16A11”が特定されました。この“SLC16A11”は、若く痩せた人に多い型の糖尿病と強く関連しています。糖尿病の危険性を高めるハプロタイプには4つのアミノ酸置換があり、それらが全て“SLC16A11”にて確認されています。“SLC16A11”はアメリカ大陸先住民の標本では50%程度、東アジア人の標本では10%程度確認されますが、ヨーロッパやアフリカの標本では稀にしか確認されません。糖尿病の危険性を高めるハプロタイプは、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)との交雑により現生人類(ホモ=サピエンス)にもたらされた、とこの研究では推測されています。
“SLC16A11”はネアンデルタール人との交雑により現生人類にもたらされたとのことですが、そうすると、“SLC16A11”がアフリカで稀なことは理解できますが、ヨーロッパでもほとんど確認されないことが理解しにくくなります。現時点では、ネアンデルタール人と交雑した現生人類は非アフリカ系と推測されており、ヨーロッパ人でも一程度以上“SLC16A11”が確認されてもよさそうなものです。
遺伝的浮動によるものだとも考えられますが、“SLC16A11”が確認されたネアンデルタール人はデニソワ洞窟で発見されたとのことですから(足指の骨)、ネアンデルタール人全員が“SLC16A11”を持っていたわけではないのかもしれません。ユーラシア東方のネアンデルタール人だけが“SLC16A11”を持っていたので、おもにユーラシア北東部を経た現生人類の子孫に見られるのかな、とも解釈できそうです。
ネアンデルタール人やデニソワ人との交雑により、現生人類は免疫系の有益と思われる遺伝子を得たとする研究を肯定する見解もあります(関連記事)。確かにその可能性は高いでしょう。しかし、交雑があれば不利益をもたらす遺伝子を得ることも当然あるわけで、この研究はその一例を証明したと言えるかもしれません。今後、他にもそうした遺伝子が発見される可能性は高いでしょう。
もっとも一般論で言えば、有利・不利とはいっても、それは環境との関係に左右されるので、ある遺伝子がどのような環境でも有利または不利とは限りません。ある環境では有利に働いた遺伝子が、別の環境では不利に働いたり中立的だったりすることもあり得るわけで、単純に有利・不利と断定するのは難しいこともあるでしょう。生物史を見ていくと、「禍福は糾える縄の如し」との故事を時として想起します。
参考文献:
The SIGMA Type 2 Diabetes Consortium.(2014): Sequence variants in SLC16A11 are a common risk factor for type 2 diabetes in Mexico. Nature, 506, 7486, 97–101.
http://dx.doi.org/10.1038/nature12828
その結果、2型糖尿病の危険性を高める新たな遺伝子座として“SLC16A11”が特定されました。この“SLC16A11”は、若く痩せた人に多い型の糖尿病と強く関連しています。糖尿病の危険性を高めるハプロタイプには4つのアミノ酸置換があり、それらが全て“SLC16A11”にて確認されています。“SLC16A11”はアメリカ大陸先住民の標本では50%程度、東アジア人の標本では10%程度確認されますが、ヨーロッパやアフリカの標本では稀にしか確認されません。糖尿病の危険性を高めるハプロタイプは、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)との交雑により現生人類(ホモ=サピエンス)にもたらされた、とこの研究では推測されています。
“SLC16A11”はネアンデルタール人との交雑により現生人類にもたらされたとのことですが、そうすると、“SLC16A11”がアフリカで稀なことは理解できますが、ヨーロッパでもほとんど確認されないことが理解しにくくなります。現時点では、ネアンデルタール人と交雑した現生人類は非アフリカ系と推測されており、ヨーロッパ人でも一程度以上“SLC16A11”が確認されてもよさそうなものです。
遺伝的浮動によるものだとも考えられますが、“SLC16A11”が確認されたネアンデルタール人はデニソワ洞窟で発見されたとのことですから(足指の骨)、ネアンデルタール人全員が“SLC16A11”を持っていたわけではないのかもしれません。ユーラシア東方のネアンデルタール人だけが“SLC16A11”を持っていたので、おもにユーラシア北東部を経た現生人類の子孫に見られるのかな、とも解釈できそうです。
ネアンデルタール人やデニソワ人との交雑により、現生人類は免疫系の有益と思われる遺伝子を得たとする研究を肯定する見解もあります(関連記事)。確かにその可能性は高いでしょう。しかし、交雑があれば不利益をもたらす遺伝子を得ることも当然あるわけで、この研究はその一例を証明したと言えるかもしれません。今後、他にもそうした遺伝子が発見される可能性は高いでしょう。
もっとも一般論で言えば、有利・不利とはいっても、それは環境との関係に左右されるので、ある遺伝子がどのような環境でも有利または不利とは限りません。ある環境では有利に働いた遺伝子が、別の環境では不利に働いたり中立的だったりすることもあり得るわけで、単純に有利・不利と断定するのは難しいこともあるでしょう。生物史を見ていくと、「禍福は糾える縄の如し」との故事を時として想起します。
参考文献:
The SIGMA Type 2 Diabetes Consortium.(2014): Sequence variants in SLC16A11 are a common risk factor for type 2 diabetes in Mexico. Nature, 506, 7486, 97–101.
http://dx.doi.org/10.1038/nature12828
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