島嶼化とフロレシエンシスの進化

 まだ日付は変わっていないのですが、12月13日分の記事として掲載しておきます。島嶼化とホモ=フロレシエンシスの進化についての研究(Montgomery., 2013)の要約を読みました。インドネシア領フローレス島のリアンブア洞窟で発見された更新世の人骨群を、人類進化系統樹においてどう位置づけるのか、議論が続いています。当初は、この人骨群が人類の新種(ホモ=フロレシエンシス)なのか、病変の現生人類(ホモ=サピエンス)なのか、ということがおもに議論されていました。

 最近では新種説がおおむね認められている、と言ってもよい状況でしょう。しかし、フロレシエンシスの起源をめぐる議論では共通見解が得られていません。当初、フロレシエンシスはホモ=エレクトスから進化したとされていました。その後、フロレシエンシスの研究が進展すると、その原始的な特徴が注目されるようになり、エレクトスよりもさらに原始的な人類(たとえば、ホモ=ハビリス)からフロレシエンシスは進化したのではないか、との見解が有力になってきました。ただ、病変現生人類説も一部で根強く主張されている、という状況です。

 フロレシエンシスの正基準標本はLB1(リアンブア1号)です。当初、フロレシエンシスはエレクトスが島嶼化(大型動物は小型化し、小型動物のなかには大型化する種もいる)した人類種だ、と主張されました。その後、島嶼化にしては脳が小さすぎるとの反論が提示され、病変現生人類説の根拠とされていました。この研究は、LB1の小さな脳が島嶼化により説明可能なのか否か検証するために、島嶼部の霊長類7系統の脳と体のサイズを分析しています。

 その結果、島嶼部の霊長類が島嶼化の法則に従うことが改めて確認されました。しかし、脳サイズの減少・体と比較しての相対的な脳の大きさについては、これまで病変説で根拠とされてきたパターンには従わないことも明らかになりました。病変説で根拠とされてきた、島嶼部の霊長類の脳と体の相対的な重量比較では、体重が過小評価される傾向にあった、と指摘されています。その結果この研究では、フロレシエンシスにおける脳と体の大きさ及びその相対比は、他の島嶼部の霊長類で観察されるパターンと一致する場合もある、と主張されています。他の島嶼部の霊長類の事例から、フロレシエンシスの脳が体と比較して異常に小さいとは言えないと、改めて確認されました。やはり病変現生人類説は成立しがたいと言えるでしょう。


参考文献:
Montgomery SH.(2013): Primate brains, the ‘island rule’ and the evolution of Homo floresiensis. Journal of Human Evolution, 65, 6, 750–760.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jhevol.2013.08.006

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