『週刊新発見!日本の歴史』第15号「平安時代3 天皇と貴族の24時間365日」

 この第15号は、承平・天慶の乱~藤原道長の摂政就任までを対象としており、天皇でいうと朱雀朝から三条朝までということになります。この時期に摂関政治は確立していきます。この第15号は、当時の貴族による政治および地方支配の在り様について、前代からの変容という視点も盛り込みつつ解説しています。

 全体的にこの第15号は、貴族が都で女房との恋文の応酬や宴会に明け暮れ、儀式に囚われて政治を疎かにした、という摂関時代の通俗的な印象を改めようとする編集方針に基づいた構成になっていると思います。この時代には儀式・作法こそ政治であり、公卿にはそれを滞りなく運用するための器量が要求され、後世に伝えていくべき口伝・故実がじょじょに成立していったことが、この第15号を読むと分かります。

 この第15号の特徴の一つは、近年になって発見されたというか確認された、当時の行事を記した史料を活用した解説になっていることです。平安時代は、一般に思われているだろう程には史料に恵まれているわけではないことが冒頭の解説で指摘されていますが、先行研究と、研究の始まったそれら「新史料」の研究も合わせて、当時の「中央政治」の在り様がより詳しく判明するようになりました。その結果、当時の貴族の勤務実態がより詳しく分かるようになりました。当時の貴族は多忙で、なかなか厳しい勤務管理がなされていたことが明らかになりつつあります。

 この時代の文化は国風と言われ、その象徴とも言える勅撰和歌集についても取り上げられています。しかし一方で、この時代の古典として漢籍が重視されていることも指摘されています。藤原道長を中心にした漢籍をめぐるやりとりの図を見ると、『白氏文集』が目につきます。この時代の人である清少納言の『枕草子』にも『白氏文集』を踏まえたやり取りがあることを、高校の古典の時間で習った人も多いでしょうが、この時代の人は『白氏文集』を愛好したのだなあ、と改めて思ったものです。

 摂関時代の地方支配を説明するうえで、受領に触れないわけにはいかないでしょう。もちろん、この第15号でも取り上げられているのですが、じゅうらいは、『今昔物語』と「尾張国郡司百姓等解文」から受領の強欲・横暴が強調されてきた感があります。しかしこの第15号では、当時の受領の在り様が、朝廷の上位支配層の意向に沿ったものであり、当時の政治的体制にあっては適合的・安定的だったことも指摘されています。一般的に人気の高そうないわゆる王朝文学についての解説が少なく、やや地味な印象も受けましたが、なかなか興味深く読めました。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック