ヨーロッパ旧石器時代の洞窟壁画の描き手の大半は女性?

 これは10月13日分の記事として掲載しておきます。旧石器時代の洞窟壁画の描き手についての研究が報道されました。該当する論文を見つけられなかったのですが、まだ論文としては公表されていないのかもしれません。この研究の前提として、人間の指の長さのバランスに性差があることを明らかにした研究があるそうです。その研究によると、女性は人差し指と薬指がほぼ同じ長さですが、男性は薬指の方が長くなる傾向がある、とのことです。この研究は、男女の指の長さの違いから、更新世の洞窟壁画の描き手が男女のどちらか、推定しています。

 この報道では、太古の壁画の作者は男性という説が自明視されていたことが指摘されています。私は、旧石器時代の壁画の描き手の性別についてとくに考えたことはありませんでしたが、指摘されてみると、女性が描き手だと推測していた本・論文は記憶にありませんし、洞窟壁画を描いている様子の復元図でも、管見の限りでは、描き手を女性とするものはなかったように思います。旧石器時代の洞窟壁画の描き手については、私も含めて多くの人に無自覚な先入観・性差的な偏見があった、ということなのかもしれません。

 この報道によると、フランス南部とスペイン北部にある40000~12000年前の8ヶ所の洞窟壁画に見られる計32点の手形のうち、24点が女性のものと判明した、とのことです。ただ、その判定基準については、疑問が残ると言えるかもしれません。ヨーロッパ系の人々から収集した手形のデータを基に作成したアルゴリズムを使って数値解析を行ったところ、現代人の性別を正しく判断できる可能性は60%ほどだったそうです。ただ、更新世の洞窟壁画に残された手形については、現代人よりも性差が大きかったため、男女の判断には問題ないとのことです。今後、より多くの事例で研究が必要になるのでしょう。

 この報道では、旧石器時代の洞窟壁画について、まず狩猟対象の動物が注目されたため、その描き手も男性だと考えられてきた、と指摘されています。しかしこの研究では、採集狩猟社会において、狩りを行なうのはほとんど男性だとしても、獲物を居住場所まで運ぶのは女性なので(現代の採集狩猟社会の研究に基づく見解なのでしょうか?)、女性も狩りの生産性を担っていた、と指摘されています。

 ただ、この報道でも指摘されていますが、なぜ手形に女性のものが多いのか、女性が壁画のうち手形以外にどれだけを描いたのか、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)が洞窟壁画を残していたとしても、この測定データは通用するのか、などといった疑問が残ります。また、フランス南部とスペイン北部以外の他地域の更新世の壁画においても同様なのか、といった疑問も残ります。無自覚な常識・先入観・偏見を指摘する重要な研究と言えるかもしれませんが、今後さらに多くの検証が必要であることも確かでしょう。

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