現代人のY染色体における最終共通祖先の年代

 『サイエンス』の今年の8月2日号に、現代人のY染色体についての研究が二本掲載されました。一つは、9集団の69人のゲノム解析結果を報告した研究(Poznik et al., 2013)です。この研究によると、現代人のY染色体における最終共通祖先の年代(合着年代)は156000~120000年前と推定されました。一方、同じ解析法を用いると、現代人のミトコンドリアDNAにおける最終共通祖先の年代は148000~99000年前と推定されました。じゅうらいの研究では、現代人のY染色体における最終共通祖先の年代が、現代人のミトコンドリアDNAにおける最終共通祖先の年代よりもずっと新しい傾向にあったのですが、この研究では、両者の年代は近く、矛盾が解決されるのではないか、と主張されています。

 もう一つは、サルデーニャ人のY染色体についての研究(Francalacci et al., 2013)です。この研究は、Y染色体の男性特有の領域内の遺伝的変異に着目し、1204人のサルデーニャ人男性のY染色体男性特有の領域を解析したところ、11763の一塩基多型を同定し、そのうちの6751は以前には観察されていなかったものでした。さらにこの研究は、ヨーロッパで発見されたすべての主要なハプログループを含むY染色体の男性特有の箇所の系統発生樹を構築するとともに、考古学的データも用いて、サルデーニャ人と他の集団とのY染色体における分岐年代を推定し、その結果、現代人のY染色体における最終共通祖先の年代は200000~180000年前となりました。これは、以前に推定されていた現代人のミトコンドリアDNAにおける最終共通祖先の年代と一致する、とこの研究では指摘されています。

 以上、二つの研究についてざっと見てきましたが、Poznik et al., 2013の表題にあるような、矛盾(不一致)を解決する(Resolves Discrepancy)という表現は適切なのだろうか、との疑問が残ります。Y染色体もミトコンドリアもそれぞれ別個の遺伝的領域であり、現代人における合着年代が一致していなければならない、ということはないはずです。こうした表現の前提として、現代人のY染色体やミトコンドリアの合着年代とホモ=サピエンスの起源とを同一視するという認識があるのではないか、という懸念があります。この問題については、以前このブログでも述べました(関連記事)。また、現代人のY染色体における合着年代について、さらに古い年代を示す研究があることも気になります(関連記事)。


参考文献:
Francalacci P. et al.(2013): Low-Pass DNA Sequencing of 1200 Sardinians Reconstructs European Y-Chromosome Phylogeny. Science, 341, 6145, 565-569.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1237947

Poznik GD. et al.(2013): Sequencing Y Chromosomes Resolves Discrepancy in Time to Common Ancestor of Males Versus Females. Science, 341, 6145, 562-565.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1237619

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