人類の衣服

 これは9月17日分の記事として掲載しておきます。人類の衣服についての見解が報道されました。寒冷な地域へといたるその生息範囲から考えても、人類がすでに更新世の頃に衣服を着用していたのは間違いありませんが、上記報道でも指摘されているように、更新世の衣服の発見を期待するのはたいへん難しく、これが研究の進展を阻んでいます。上記報道では、考古学的資料から判断すると、25000年前には、既に現生人類(ホモ=サピエンス)社会において複雑な衣服が作られていた、との見解が取り上げられていますが、現生人類だけではなく、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)もおそらく衣服を着用していただろう、という見解も取り上げられています。

 人類の衣服の着用がどこまでさかのぼるのか、という問題については、以前このブログで何度か取り上げたことがありますが、近年ではまったくといってよいほど勉強が進んでいないので、とりあえずこのブログの記事をいくつか引用しておきます。現生人類が衣服を着用していた間接的(とはいってもかなり強力)な証拠としては、グルジアの遺跡の30000年前頃の上部旧石器層から発見された、紡がれ黒・灰・青緑・桃色などに染色されて結び目も認められた野生の亜麻繊維があります(関連記事)。これが現生人類の所産との確証はないのですが、年代と文化層から考えて、まず間違いなく現生人類の所産でしょう。

 上記報道でも少し言及されていましたが、ネアンデルタール人の滅亡と現生人類の繁栄の一因として、衣服の違いを想定する見解もあり、両者の衣服の違いが運命を分ける大きな要因になった、との見解や(関連記事)、両者の運命を大きく分けた要因としての性別分業の違いの一つに、衣服の裁縫を想定する見解もあります(関連記事)。ネアンデルタール人の絶滅についてはさまざまな理由が主張されていますが、おそらく地域ごとにそれぞれ異なる複合的理由により絶滅したのだろう、と私は考えています。多くの地域で大きな要因となったのは現生人類との競合なのでしょうが、そうだとしても、現生人類との競合で何がネアンデルタール人にとって不利に作用したのか、という問題は残ります。

 本題から外れるのですが、上記報道で私がもっとも注目したのは、「アメリカ、ジョージア州の洞窟群からは、約3万年前の植物繊維が見つかっている。ピンクや黒、青に染められており、当時の布地作りに関する手掛かりになるだろう」との一節です。アメリカ大陸への人類最初の移住について、20世紀後半に定説だったクローヴィス最古説はもう否定されていると言ってもよい状況でしょうが、さすがに30000年以上前までさかのぼる、という説が多くの支持を集めている状況とも思えません。ただ、ひじょうに注目すべき説ではあると思いますので、今後もこの問題について情報を収集していくつもりです。

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