人類の投擲能力の進化

 これは8月25日分の記事として掲載しておきます。多忙なこともあり、このブログで取り上げようとして注目していたにも関わらず、内容を把握していない研究がかなり増えてきたので、報道されてからかなり経過した研究も少なくないのですが、今後はそうした研究を少しずつ取り上げていくことにします。今回取り上げるのは、人類の投擲能力の進化についての研究(Roach et al., 2013)と報道です。ダーウィンは、人間の投擲能力の高さと直立二足歩行への進化との関係を指摘しましたが、その後も、証拠の欠如もあって、人間の投擲能力の進化についてはほとんど考慮されてきませんでした。

 この研究では、大学の野球選手たちの投球動作の分析により、肩の弾性エネルギーを弩に似た形で保存し解放するという、人間の高度な投擲能力が派生的な解剖学的特徴の結果だということが示されました。こうした派生的な解剖学的特徴が最初に一括して認められるのは200万年前頃のホモ=エレクトスであり、この頃に狩猟活動が活発になることを示唆している考古学的証拠を考慮すると、高度な投擲能力はホモ属の進化において重要な役割を果たしたのではないか、とこの研究では指摘されています。

 人類がいつ高度な投擲能力を獲得したのか、今後の発掘・研究により推定年代は変わってくるかもしれませんが、高度な投擲能力が人類の生存に重要な役割を果たしたことは間違いないでしょうし、それが大きな選択圧になった可能性は高いでしょう。ただ、最初期のエレクトスについて言うと、この投擲能力は直接狩猟に用いられたことよりも、死肉漁りにおいて競合者を追い払うことに用いられたことの方が多かったかもしれません。


参考文献:
Roach NT. et al.(2013): Elastic energy storage in the shoulder and the evolution of high-speed throwing in Homo. Nature, 498, 7455, 483-486.
http://dx.doi.org/10.1038/nature12267

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