初期人類の耳小骨

 初期人類の耳小骨についての研究(Quam et al., 2013)の要約を読みました。この研究では、南アフリカで発見されたパラントロプス=ロブストスとアウストラロピテクス=アフリカヌスの耳小骨が、現生人類(ホモ=サピエンス)およびアジアとアフリカの現生大型類人猿と比較されています。中耳小骨は人類の化石では稀にしか見つかりませんが、この研究で報告されているロブストスの場合、完全な耳小骨連鎖(槌骨・キヌタ骨・アブミ骨)が保存されていました。槌骨・キヌタ骨・アブミ骨はいずれも中耳内にあり、キヌタ骨はツチ骨とアブミ骨の間の振動を伝える役割を果たしています。

 この比較の結果、アフリカヌスとロブストスの槌骨は明らかに現生人類に似ていましたが、アフリカヌスとロブストスのキヌタ骨・中耳のアブミ骨は、現生人類よりもアジアとアフリカの現生大型類人猿の方に似ていました。この結果から、現生人類の派生的な槌骨の形態は、最初期の人類の特徴の一つかもしれない、とこの研究では推測されています。また、アフリカヌスやロブストスと現生人類とのツチ骨とアブミ骨における解剖学的相違と、外耳・中耳・内耳における他の相違は、現生人類とアフリカヌスやロブストスとの聴覚能力は異なる、との見解と一致している、とこの研究では指摘されています。


参考文献:
Quam RM. et al.(2013): Early hominin auditory ossicles from South Africa. PNAS, 110, 22, 8847–8851.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1303375110

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  • アフリカヌスとロブストスの聴覚能力

    Excerpt: アフリカ南部の初期人類である、アウストラロピテクス属のアフリカヌス(Australopithecus africanus)とパラントロプス属のロブストス(Paranthropus robustus)の.. Weblog: 雑記帳 racked: 2015-10-02 00:00