山本博文、堀新、曽根勇二編『偽りの秀吉像を打ち壊す』

 柏書房より2013年2月に刊行されました。同じく柏書房より2011年6月に刊行された『消された秀吉の真実 徳川史観を越えて』
https://sicambre.seesaa.net/article/201106article_12.html
の続編であり、体裁も『消された秀吉の真実 徳川史観を越えて』と同じく各論考から成る論文集で、本書は前作より一章減り、序章と第一章~第九章の論考が掲載されています。本書も前作と同じく、豊臣秀吉関連の文書が取り上げられ、その原本の写真が掲載されるとともに、釈文と現代語訳が記載されており、一般向け書籍としてたいへん丁寧な構成になっています。本書も前作と同じく、徳川史観の克服が基調の一つとなっています。また、表題に「秀吉像」とありますが、秀吉没後の豊臣氏についての論考も掲載されています。

 徳川史観の克服という観点がもっとも強く表れているのが第一章の堀新「豊臣秀吉は征夷大将軍になりたかったのか?」で、秀吉は征夷大将軍に就任したかったが果たせなかった、という今でも根強いだろう俗説が批判され、このような俗説が浸透したのは徳川史観のためだ、と指摘されています。戦国時代には天皇(朝廷)の権威が衰退したという根強い史観への反動もあってか、20世紀後半以降、戦国時代末期~江戸幕府成立の頃までの天皇の権威を高く評価する見解が目立つように思うのですが、それは天皇・朝廷の過大評価だと指摘するのが第五章の山本博文「秀吉と天皇」で、武家政権と朝廷との関係を対立的に把握する傾向にある、これまでの日本の歴史学への批判にもなっています。本書もなかなか面白く有益で、続編の刊行が期待されます。

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