『天智と天武~新説・日本書紀~』第20話「巡り物語」
これは6月13日分の記事として掲載しておきます。『ビッグコミック』2013年6月25日号掲載分の感想です。前回は有間皇子の処刑まで描かれ、中大兄皇子と孝徳帝・有間皇子父子との争いに最終的に決着がつき、今回は新たな展開に入りますが、舞台は、依然として紀伊の牟婁の湯です。都(飛鳥後岡本宮)では、有間皇子が無実なのに処刑された、と噂されており、人々は有間皇子に同情的です。牟婁の湯への滞在を続ける大海人皇子は浮かない様子で、まだ日没前なのに自室に一人で籠っていました。孝徳帝からその息子の有間皇子を守るよう頼まれたのに、有間皇子を守れなかったことを、大海人皇子は悔いていました。
そこへ額田王が大海人皇子を訪れます。額田王も歌人として有間皇子の死を無念に思っていました。落ち込む二人ですが、せっかくだから楽しい話でもしよう、と大海人皇子は気持ちを切り替えようとします。額田王は都から娘の十市皇女を呼んでおり、この機会に大海人皇子に会わせます。大海人皇子は娘の十市皇女を抱きしめ、乙巳の変以来、家族を永遠に失ってしまったと思っていたのに、こうして新たなかけがえのない家族ができたことを喜びます。十市皇女と額田王との会話から、鏡王女が額田王の姉であり、中大兄皇子と婚姻関係にあることが明かされます。鏡王女は不明なところの多い人物ですが、この作品では額田王の姉という設定のようです。
その頃、中大兄皇子は宴会を催して痛飲し、大騒ぎしていました。有間皇子の謀反を止めた祝いの宴を連日催しているのに、大君(斉明帝)とその側近の女官たちはなぜ来ないのか、と中大兄皇子が女官に尋ねると、大君は体調を崩して欠席しており、その側近たちも斉明帝に倣って遠慮しているのです、と女官は答えます。すると中大兄皇子は鏡王女を呼び、大君を連れてくるよう命じます。大君は体調が悪い、と難色を示す鏡王女ですが、大君を連れてくるよう、中大兄皇子は強引に鏡王女に命じます。鏡王女が仕方なく立ち上がると、中大兄皇子は命令を一部修正し、額田王が来るなら大君を呼ばなくてもよい、と鏡王女に言います。
宴の場にいた豊璋(16話以来の登場となります)が、額田王を呼んで朝廷を称える歌でも詠ませるつもりですか、と中大兄皇子に尋ねると、それもよいな、と中大兄皇子は答えます。有間皇子に同情的な世間の空気を覆す効果があるかもしれない、と言う豊璋にたいして、額田王は歌だけではなく姿も美しい、と中大兄皇子は言います。鏡王女も負けず劣らずです、と言う豊璋に、鏡王女が好みなのか、と中大兄皇子は尋ねます。滅相もございませぬ、お戯れを、と笑って答える豊璋に、中大兄皇子は冷めた視線を向けます。
鏡王女は妹の額田王を訪ね、宴に出席するよう言います。額田王が宴に出ないと大君が出ることになる、と鏡王女が言うと、大君は密かに亡き人のために祈っているのだから、と言って額田王は自分が宴に出ることにします。おそらく、斉明帝は有間皇子のために祈っているのでしょう。その会話を聞いていた大海人皇子は、自分も宴に出ることにします。大海人皇子・額田王・鏡王女が宴の場に現れると、中大兄皇子は宴を強引に終わらせて出席者たちを帰させ、豊璋・大海人皇子・額田王・鏡王女に残るよう命じます。つい先ほどまで宴の催されていた場は、この4人と中大兄皇子の5人だけが残る、ひっそりとした空間に変わりました。
中大兄皇子は他の4人にたいして、一つ言っておきたいことがある、と改まって切り出します。妙に改まってどうしたのですか、と大海人皇子が尋ねると、自分は額田王を娶ることにした、と中大兄皇子は唐突に宣言し、大海人皇子も額田王も驚きのあまり声を失うなか、さらに中大兄皇子は、自分の妻の中から鏡王女を忠臣の豊璋に与える、と宣言します。兄上、戯れが過ぎますぞ、と笑う大海人皇子にたいして、そうではないことを、そなたがもっともよく知っておろう、欲しいものはどんな手段を使っても入手するのが自分のやり方だ、と中大兄皇子は冷ややかに答えます。額田王と大海人皇子は、怒りと諦めの入り混じったような表情を浮かべます。
大海人皇子は皮肉を込めて、自分の父である蘇我入鹿に始まり、中大兄皇子の異母兄である古人大兄皇子とその子供たち、蘇我倉山田石川麻呂とその娘で中大兄皇子の妻であった遠智媛、さらには孝徳帝とその息子の有間皇子も犠牲になった、いったいどれほどの血と涙を流せば、兄上の欲望は満たされるのだ、と中大兄皇子に問いかけます。すると中大兄皇子は、宴の余興に、誰にも見せず心の奥にしまっていたものを見せてやろう、ただし、自分の告白が済んだら、次はそなたらの番だ、と言って自分の心情を語り始めます。
中大兄皇子が6歳になった年の初夏、母である斉明帝(当時は舒明帝の皇后)が男子を産み、月皇子(後の大海人皇子)と名づけました。宝皇女(斉明帝)の女官たちは、にこにこと笑い愛嬌のある月皇子を可愛がり、大君になったら多くの民に慕われるだろうが、残念ながら二番目の皇子だ、と言います。母の宝皇女も、長子の葛城皇子(中大兄皇子)は昔から神経質で陰気な印象を与えるから、人望に欠けるかもしれない、と言います。すると物音がして、女官の一人が戸を開けると、愛想のない表情をしている葛城皇子が立っていました。
こんなところで何をしていたのか、と母の宝皇女に問いただされた葛城皇子は、自分は陰気ではない、と吃りながら答えます。すると宝皇女は、盗み聞き自体が卑しくて陰気な行為であり、皇族のすることではない、と葛城皇子を諭し、泣き出した月皇子を優しげな表情であやします。葛城皇子は衝撃を受け、憎悪の込められたような表情でその様子を見ていました。皇后は忙しいので、と言って女官は戸を閉め、葛城皇子はその場に立ち尽くします。葛城皇子が後ろで組んでいた手には花が握られており、葛城皇子の手は震えていました。その花は、弟の月皇子にあげるために摘んだものでした。
しかし、葛城皇子を傷つけたのは、盗み聞きしていた、と誤解されたことではなく、弟の月皇子を見つめる母の眼差しでした。一度でよいから、自分もそのように見つめられてみたかった、と中大兄皇子(葛城皇子)は告白します。さらに中大兄皇子が、父の舒明帝も同じで、自分よりも異母兄の古人大兄皇子を買っていた、自分の居場所はどこにもなかったのだ、と告白するところで、今回は終了です。今回は、中大兄皇子と大海人皇子との本格的な心理戦が始まったことを予感させる内容になっており、乙巳の変前の中大兄皇子の心情とその周囲の事情も明かされて、たいへん面白くなっていました。両親に愛されなかった人間が冷酷な怪物に成長する、という陳腐な物語で終わってしまうのではないか、との不安がないわけではありませんが、次回へと大いなる期待を抱かせるような内容でした。
十市皇女と鏡王女とは今回が初登場となりますが(十市皇女は一度存在が言及されていましたが)、描き分けられているとはいえ、十市皇女は大田皇女に、鏡王女は遠智媛・小足媛に似ており、作者は漫画家として人物の描き分けが上手い方だと思いますが、それでも限界があるということなのかな、と思います。まあ、不満が残るというほど似ているわけではありませんが。そろそろ豊璋(中臣鎌足)の息子である藤原不比等が生まれる頃ですが、不比等は鏡王女の子供で、天智帝(中大兄皇子)のご落胤という設定になるのでしょうか。第3話に登場した不比等は、顔、とくに輪郭が中大兄皇子よりも豊璋に似ているように思われるので、この作品では不比等ご落胤説は採用されないのではないか、と予想していたのですが。この後帰国して若くして亡くなることになる真人(定恵)とともに、豊璋の息子たちの描写が気になります。
中大兄皇子が額田王を娶ることにしたのは、額田王を気に入ったということもあるのかもしれませんが、何よりも、大海人皇子を意識してのことだろう、と思います。このことと、自分の過去を語ったことについて、中大兄皇子の意図はまだよく分かりません。額田王を娶ろうとしたのは、大海人皇子を動揺させ、その隙を衝こうとしたのかな、と思いますが、これまで他人に見せなかった自分の心情を大海人皇子らに語りだしたことにいかなる意図があるのか、現時点では予想しにくいところがあります。あえて推測すると、自分が心情を明かして他の4人にも同じことをさせて、他の4人の心情を探ろうとしているのかな、と思います。あるいは、物語の展開の必要上、主要人物の過去と心情を明かすための舞台を設けた、ということなのかもしれません。
中大兄皇子の子供の頃の様子・心情は今回かなり明かされましたが、成長した中大兄皇子の人物設定に沿った話になっており、現時点では成功を予感させます。月皇子は蘇我本宗家で育てられていましたから、どこかの時点で蘇我本宗家に移ったのでしょうが、おそらく、月皇子が入鹿との間の不義の子であることが、葛城皇子(中大兄皇子)など宝皇女の周囲のごく一部の人間に知られ、宮廷で育てられなくなったのではないか、と予想しています。ただでさえ母に不満を抱いていた中大兄皇子は、これで人間不信に陥り、冷酷な性格に成長していったのかもしれません。月皇子が蘇我本宗家で育てられるようになった経緯がどう語られるのか、注目しています。
今回の最後で、中大兄皇子が古人大兄皇子に言及したことも注目されます。古人大兄皇子はこれまでのところ、第4話の幻想的な回想場面にのみ登場していますが、そこでは少年時代に中大兄皇子と仲良く魚捕りをしていました。これまで、古人大兄皇子は一般的に、気弱というか情けない地味な人物として認識されることが多いように思うのですが、中大兄皇子の告白によると、二人の父の舒明帝は、中大兄皇子よりも古人大兄皇子を買っていた、とのことです。古人大兄皇子がいかなる人物として描かれるのか、中大兄皇子との関係はどうだったのか、古人大兄皇子の娘で天智帝(中大兄皇子)の皇后(大后)となった倭姫王はどう描かれるのか、といったことが今から楽しみです。
まあ、古人大兄皇子と中大兄皇子との関係がこれ以上詳しく描かれるのか、これまで名前が言及されただけの舒明帝や、まだ言及さえされていない倭姫王が登場するのか、確証はないのですが、一般的には知名度の低そうな古人大兄皇子が回想場面ですでに登場していることから、古人大兄皇子とその周囲の人物もそれなりに詳しく描かれるのではないか、と期待しています。これまで人物像のまったく明かされていない舒明帝も、妻や息子たちとの関係がどう描かれるのか、注目しています。今回、大海人が他の4人に入鹿の息子であることを堂々と話している場面も描かれましたが、斉明帝の立場上、さすがに群臣に大海人皇子が入鹿の息子である、と公表されたわけではないでしょうから、大海人皇子が入鹿の息子である、と確信しているのは、中大兄皇子の告白を聞いている4人と斉明帝などごく一部の人間に限られているのでしょう。この告白の場面がどこまで続くのか分かりませんが、過去も明かしつつかなり密度の濃いものになりそうで、少なくともこの後2回くらいは続いてもらいたいものです。
そこへ額田王が大海人皇子を訪れます。額田王も歌人として有間皇子の死を無念に思っていました。落ち込む二人ですが、せっかくだから楽しい話でもしよう、と大海人皇子は気持ちを切り替えようとします。額田王は都から娘の十市皇女を呼んでおり、この機会に大海人皇子に会わせます。大海人皇子は娘の十市皇女を抱きしめ、乙巳の変以来、家族を永遠に失ってしまったと思っていたのに、こうして新たなかけがえのない家族ができたことを喜びます。十市皇女と額田王との会話から、鏡王女が額田王の姉であり、中大兄皇子と婚姻関係にあることが明かされます。鏡王女は不明なところの多い人物ですが、この作品では額田王の姉という設定のようです。
その頃、中大兄皇子は宴会を催して痛飲し、大騒ぎしていました。有間皇子の謀反を止めた祝いの宴を連日催しているのに、大君(斉明帝)とその側近の女官たちはなぜ来ないのか、と中大兄皇子が女官に尋ねると、大君は体調を崩して欠席しており、その側近たちも斉明帝に倣って遠慮しているのです、と女官は答えます。すると中大兄皇子は鏡王女を呼び、大君を連れてくるよう命じます。大君は体調が悪い、と難色を示す鏡王女ですが、大君を連れてくるよう、中大兄皇子は強引に鏡王女に命じます。鏡王女が仕方なく立ち上がると、中大兄皇子は命令を一部修正し、額田王が来るなら大君を呼ばなくてもよい、と鏡王女に言います。
宴の場にいた豊璋(16話以来の登場となります)が、額田王を呼んで朝廷を称える歌でも詠ませるつもりですか、と中大兄皇子に尋ねると、それもよいな、と中大兄皇子は答えます。有間皇子に同情的な世間の空気を覆す効果があるかもしれない、と言う豊璋にたいして、額田王は歌だけではなく姿も美しい、と中大兄皇子は言います。鏡王女も負けず劣らずです、と言う豊璋に、鏡王女が好みなのか、と中大兄皇子は尋ねます。滅相もございませぬ、お戯れを、と笑って答える豊璋に、中大兄皇子は冷めた視線を向けます。
鏡王女は妹の額田王を訪ね、宴に出席するよう言います。額田王が宴に出ないと大君が出ることになる、と鏡王女が言うと、大君は密かに亡き人のために祈っているのだから、と言って額田王は自分が宴に出ることにします。おそらく、斉明帝は有間皇子のために祈っているのでしょう。その会話を聞いていた大海人皇子は、自分も宴に出ることにします。大海人皇子・額田王・鏡王女が宴の場に現れると、中大兄皇子は宴を強引に終わらせて出席者たちを帰させ、豊璋・大海人皇子・額田王・鏡王女に残るよう命じます。つい先ほどまで宴の催されていた場は、この4人と中大兄皇子の5人だけが残る、ひっそりとした空間に変わりました。
中大兄皇子は他の4人にたいして、一つ言っておきたいことがある、と改まって切り出します。妙に改まってどうしたのですか、と大海人皇子が尋ねると、自分は額田王を娶ることにした、と中大兄皇子は唐突に宣言し、大海人皇子も額田王も驚きのあまり声を失うなか、さらに中大兄皇子は、自分の妻の中から鏡王女を忠臣の豊璋に与える、と宣言します。兄上、戯れが過ぎますぞ、と笑う大海人皇子にたいして、そうではないことを、そなたがもっともよく知っておろう、欲しいものはどんな手段を使っても入手するのが自分のやり方だ、と中大兄皇子は冷ややかに答えます。額田王と大海人皇子は、怒りと諦めの入り混じったような表情を浮かべます。
大海人皇子は皮肉を込めて、自分の父である蘇我入鹿に始まり、中大兄皇子の異母兄である古人大兄皇子とその子供たち、蘇我倉山田石川麻呂とその娘で中大兄皇子の妻であった遠智媛、さらには孝徳帝とその息子の有間皇子も犠牲になった、いったいどれほどの血と涙を流せば、兄上の欲望は満たされるのだ、と中大兄皇子に問いかけます。すると中大兄皇子は、宴の余興に、誰にも見せず心の奥にしまっていたものを見せてやろう、ただし、自分の告白が済んだら、次はそなたらの番だ、と言って自分の心情を語り始めます。
中大兄皇子が6歳になった年の初夏、母である斉明帝(当時は舒明帝の皇后)が男子を産み、月皇子(後の大海人皇子)と名づけました。宝皇女(斉明帝)の女官たちは、にこにこと笑い愛嬌のある月皇子を可愛がり、大君になったら多くの民に慕われるだろうが、残念ながら二番目の皇子だ、と言います。母の宝皇女も、長子の葛城皇子(中大兄皇子)は昔から神経質で陰気な印象を与えるから、人望に欠けるかもしれない、と言います。すると物音がして、女官の一人が戸を開けると、愛想のない表情をしている葛城皇子が立っていました。
こんなところで何をしていたのか、と母の宝皇女に問いただされた葛城皇子は、自分は陰気ではない、と吃りながら答えます。すると宝皇女は、盗み聞き自体が卑しくて陰気な行為であり、皇族のすることではない、と葛城皇子を諭し、泣き出した月皇子を優しげな表情であやします。葛城皇子は衝撃を受け、憎悪の込められたような表情でその様子を見ていました。皇后は忙しいので、と言って女官は戸を閉め、葛城皇子はその場に立ち尽くします。葛城皇子が後ろで組んでいた手には花が握られており、葛城皇子の手は震えていました。その花は、弟の月皇子にあげるために摘んだものでした。
しかし、葛城皇子を傷つけたのは、盗み聞きしていた、と誤解されたことではなく、弟の月皇子を見つめる母の眼差しでした。一度でよいから、自分もそのように見つめられてみたかった、と中大兄皇子(葛城皇子)は告白します。さらに中大兄皇子が、父の舒明帝も同じで、自分よりも異母兄の古人大兄皇子を買っていた、自分の居場所はどこにもなかったのだ、と告白するところで、今回は終了です。今回は、中大兄皇子と大海人皇子との本格的な心理戦が始まったことを予感させる内容になっており、乙巳の変前の中大兄皇子の心情とその周囲の事情も明かされて、たいへん面白くなっていました。両親に愛されなかった人間が冷酷な怪物に成長する、という陳腐な物語で終わってしまうのではないか、との不安がないわけではありませんが、次回へと大いなる期待を抱かせるような内容でした。
十市皇女と鏡王女とは今回が初登場となりますが(十市皇女は一度存在が言及されていましたが)、描き分けられているとはいえ、十市皇女は大田皇女に、鏡王女は遠智媛・小足媛に似ており、作者は漫画家として人物の描き分けが上手い方だと思いますが、それでも限界があるということなのかな、と思います。まあ、不満が残るというほど似ているわけではありませんが。そろそろ豊璋(中臣鎌足)の息子である藤原不比等が生まれる頃ですが、不比等は鏡王女の子供で、天智帝(中大兄皇子)のご落胤という設定になるのでしょうか。第3話に登場した不比等は、顔、とくに輪郭が中大兄皇子よりも豊璋に似ているように思われるので、この作品では不比等ご落胤説は採用されないのではないか、と予想していたのですが。この後帰国して若くして亡くなることになる真人(定恵)とともに、豊璋の息子たちの描写が気になります。
中大兄皇子が額田王を娶ることにしたのは、額田王を気に入ったということもあるのかもしれませんが、何よりも、大海人皇子を意識してのことだろう、と思います。このことと、自分の過去を語ったことについて、中大兄皇子の意図はまだよく分かりません。額田王を娶ろうとしたのは、大海人皇子を動揺させ、その隙を衝こうとしたのかな、と思いますが、これまで他人に見せなかった自分の心情を大海人皇子らに語りだしたことにいかなる意図があるのか、現時点では予想しにくいところがあります。あえて推測すると、自分が心情を明かして他の4人にも同じことをさせて、他の4人の心情を探ろうとしているのかな、と思います。あるいは、物語の展開の必要上、主要人物の過去と心情を明かすための舞台を設けた、ということなのかもしれません。
中大兄皇子の子供の頃の様子・心情は今回かなり明かされましたが、成長した中大兄皇子の人物設定に沿った話になっており、現時点では成功を予感させます。月皇子は蘇我本宗家で育てられていましたから、どこかの時点で蘇我本宗家に移ったのでしょうが、おそらく、月皇子が入鹿との間の不義の子であることが、葛城皇子(中大兄皇子)など宝皇女の周囲のごく一部の人間に知られ、宮廷で育てられなくなったのではないか、と予想しています。ただでさえ母に不満を抱いていた中大兄皇子は、これで人間不信に陥り、冷酷な性格に成長していったのかもしれません。月皇子が蘇我本宗家で育てられるようになった経緯がどう語られるのか、注目しています。
今回の最後で、中大兄皇子が古人大兄皇子に言及したことも注目されます。古人大兄皇子はこれまでのところ、第4話の幻想的な回想場面にのみ登場していますが、そこでは少年時代に中大兄皇子と仲良く魚捕りをしていました。これまで、古人大兄皇子は一般的に、気弱というか情けない地味な人物として認識されることが多いように思うのですが、中大兄皇子の告白によると、二人の父の舒明帝は、中大兄皇子よりも古人大兄皇子を買っていた、とのことです。古人大兄皇子がいかなる人物として描かれるのか、中大兄皇子との関係はどうだったのか、古人大兄皇子の娘で天智帝(中大兄皇子)の皇后(大后)となった倭姫王はどう描かれるのか、といったことが今から楽しみです。
まあ、古人大兄皇子と中大兄皇子との関係がこれ以上詳しく描かれるのか、これまで名前が言及されただけの舒明帝や、まだ言及さえされていない倭姫王が登場するのか、確証はないのですが、一般的には知名度の低そうな古人大兄皇子が回想場面ですでに登場していることから、古人大兄皇子とその周囲の人物もそれなりに詳しく描かれるのではないか、と期待しています。これまで人物像のまったく明かされていない舒明帝も、妻や息子たちとの関係がどう描かれるのか、注目しています。今回、大海人が他の4人に入鹿の息子であることを堂々と話している場面も描かれましたが、斉明帝の立場上、さすがに群臣に大海人皇子が入鹿の息子である、と公表されたわけではないでしょうから、大海人皇子が入鹿の息子である、と確信しているのは、中大兄皇子の告白を聞いている4人と斉明帝などごく一部の人間に限られているのでしょう。この告白の場面がどこまで続くのか分かりませんが、過去も明かしつつかなり密度の濃いものになりそうで、少なくともこの後2回くらいは続いてもらいたいものです。
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