中国との関係が極めてスムーズにいったという歴史は過去にない

 これは5月7日分の記事として掲載しておきます。今月5日、麻生副首相兼財務相がニューデリー市内の講演で、「インドは陸上で中国と国境を接し、日本は海上で接触を持っているが、われわれは過去1500年以上の長きにわたり、中国との関係が極めてスムーズにいったという歴史は過去にない」と述べた、と報道 されました。安全保障や海洋分野での日本とインドの関係を強化すべきではないか、との質問に対する答えだったそうですが、そもそも、きわめてスムーズな関係とはどのようなものなのかとか、1500年という長期的な歴史問題として把握できるのかとか、麻生副首相が頼りにするアメリカ合衆国と日本との関係も、第二次世界大戦後に限っても、安保・通商・構造改革問題などがあり、スムーズな関係ではないとも言えそうだとか、いかにも麻生副首相らしい、受けを狙った突っ込みどころのある大雑把な発言だと思います。

 こうした発言は、親しい者同士の居酒屋での会話ならば、とくに問題はないのでしょうが、現職の閣僚、それも首相経験者で現在の副首相が、訪問先の外国の講演会で述べてよいような発言ではないでしょう。日本には700人以上の国会議員がいるので、麻生副首相のような放言癖のある議員が数人ていどいても仕方ないとは思いますが、じっさいにはもっと多そうですし、そうした人が野党の無名の一議員ならまだしも、首相になり、首相の座から降りた後に再び入閣するような人物だと、本当に困ります。せめて、閣僚の間はこうした放言を控えてもらいたいものですが。

 あえて日中関係がスムーズにいっていた時代というと、領土問題はあったにせよ(現在ほどこじれていたわけではありませんが)、国交締結の1972年から1989年の第二次天安門事件の頃までなのでしょう。その後の日中関係の悪化は、中国の高度経済成長による経済面での日中の競合が強くなった、という経済的側面や、それと関連して、日本の相対的な衰退に伴う日中の国力差の縮小・さらには逆転による、中国の海洋侵出の強化が要因として考えられますが、その根本的原因は、冷戦構造の崩壊というかソ連の消滅だろう、と思います。ソ連という日中共通の巨大な敵が崩壊したというか没落したことこそ、日中関係悪化の根源であり、ソ連に相当する政治的勢力が出現する見込みも当分ありませんから、日中関係の劇的な改善はしばらくはないだろう、と思います。環境悪化や資源不足といった問題は、日中にとって共通の大きな脅威ではありますが、これらは世界共通のことでもあり、また経済とも関係してきてゼロサムゲーム的な性格も多分にあるので、日中関係の劇的な改善には結びつかないでしょう。

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