『天智と天武~新説・日本書紀~』における古人大兄皇子
まだ日付は変わっていないのですが、4月6日分の記事として掲載しておきます。現在15話まで進んでいる『天智と天武~新説・日本書紀~』では、第4話「鹿狩り」の中大兄皇子(天智天皇)の回想場面にて古人大兄皇子が登場します。古人大兄皇子は一般にはさほど知名度が高くなさそうですし、乙巳の変前後の政治史においては、蘇我本宗家の傀儡として大王(天皇)に擁立されそうになったものの、入鹿が殺害された後はあっさりと出家し、その後間もなくに謀反を起こしたか謀反の罪を着せられて殺害された、気弱というか情けない地味な人物として認識されることが多いように思います。
しかし、古人大兄皇子の娘の倭姫王が天智天皇の皇后(大后)となっていることや、病に倒れた天智天皇が大海人皇子に後事を託そうとしたところ、大海人皇子は倭姫王の即位を進言したと『日本書紀』に見えることなどもあって、私は以前より古人大兄皇子に関心を持っていました。『天智と天武~新説・日本書紀~』では、15話までに孝徳天皇の皇后だった間人皇女(天智の妹で天武の姉)が、登場しないどころか、言及さえされないことなどからも、重要人物といえどもその存在が省略されることが多そうですが、そんな中で、地味な古人大兄皇子が描かれたのは嬉しいものです。
中大兄皇子の回想場面に登場する古人大兄皇子は、二人の息子とともに、中大兄皇子・豊璋と対峙しています。大君の座に就くよう要請されても固辞し、野心がないことを示すために出家して吉野に隠遁した古人大兄皇子ですが、中大兄皇子と豊璋に追いつめられます。出家・隠遁しても許してくれないのか、と問いかける古人大兄皇子にたいして、さすがに中大兄皇子も躊躇します。しかし豊璋は、中大兄皇子の異母兄である古人大兄皇子は、入鹿の叔母を母としており、禍根を断つためにもその息子ともども殺すべきだ、と進言します。
古人大兄皇子の二人の息子を殺した中大兄皇子にたいして、古人大兄皇子は手を合わせて涙を流し、韓人の豊璋が鞍作臣(入鹿)を殺したのだろう、と問いかけます。幼い頃、古人大兄皇子と楽しく魚捕りをしていたことを思い出した中大兄皇子は悲しそうな表情を浮かべますが、ついに古人大兄皇子の首を刎ねます。すると、古人大兄皇子の首だけではなく蘇我入鹿の首も空中に浮かび、中大兄皇子は恐怖にかられます。この中大兄皇子の回想場面は、事実そのものというよりも、事実を反映した夢と考えるべきなのでしょう。
中大兄皇子にとって、入鹿の殺害ほどではなさそうですが、古人大兄皇子を殺したことは心の傷になっているようで、これは今後の物語において重要な役割を果たすように思われます。壬申の乱はこの作品の山場となりそうですが、壬申の乱前夜の中大兄皇子と大海人皇子との心理戦も大いに盛り上がりそうで、大海人皇子が出家して吉野に隠遁しようとする場面では、中大兄皇子の決断に、同じく出家して吉野に隠遁した古人大兄皇子を殺害したことが大きな影響を与えるのではないか、と予想しています。
また、大海人皇子が病床の天智天皇に次の大君(大王、天皇)を倭姫王とするよう進言したことが、この作品では天智天皇と大海人皇子との心理戦としてどのように描かれるのか、ということも大いに注目しています。もっとも、倭姫王が登場するのか、まだ確定したわけではありませんが、これまでの話の流れでは、間人皇女と同様に言及されなくても不思議はなさそうな古人大兄皇子がわざわざ描かれていることから、その娘の倭姫王が登場する可能性は高いように思います。その場合、倭姫王が誰に養育され、どのような経緯で天智天皇の皇后となったのか、作中での描写に注目しています。単純に贖罪の意味で天智天皇が倭姫王を皇后にしたという話だと面白くなさそうですが、どうなるでしょうか。
倭姫王についての記録は少なく、事績・人物像についてはほとんど不明というのが現状でしょう。なぜ謀反人の娘がその父の仇とも言うべき天智天皇の皇后となったのか(二人は叔父と姪の関係となります)、天智天皇との婚姻関係はいつ成立したのか、母親は誰なのか、どの氏族に養育されたのかなど、倭姫王には多くの謎があります。その意味では、創作のやりがいのある人物とも言えるわけで、この作品では天智天皇との関係がどう描かれるのか、大いに注目しています。なお、倭姫王を主人公とした漫画があるそうで(長岡良子『夢の奥城』)、古い作品なので入手は難しそうですが、入手できたら読んでみるつもりです。
しかし、古人大兄皇子の娘の倭姫王が天智天皇の皇后(大后)となっていることや、病に倒れた天智天皇が大海人皇子に後事を託そうとしたところ、大海人皇子は倭姫王の即位を進言したと『日本書紀』に見えることなどもあって、私は以前より古人大兄皇子に関心を持っていました。『天智と天武~新説・日本書紀~』では、15話までに孝徳天皇の皇后だった間人皇女(天智の妹で天武の姉)が、登場しないどころか、言及さえされないことなどからも、重要人物といえどもその存在が省略されることが多そうですが、そんな中で、地味な古人大兄皇子が描かれたのは嬉しいものです。
中大兄皇子の回想場面に登場する古人大兄皇子は、二人の息子とともに、中大兄皇子・豊璋と対峙しています。大君の座に就くよう要請されても固辞し、野心がないことを示すために出家して吉野に隠遁した古人大兄皇子ですが、中大兄皇子と豊璋に追いつめられます。出家・隠遁しても許してくれないのか、と問いかける古人大兄皇子にたいして、さすがに中大兄皇子も躊躇します。しかし豊璋は、中大兄皇子の異母兄である古人大兄皇子は、入鹿の叔母を母としており、禍根を断つためにもその息子ともども殺すべきだ、と進言します。
古人大兄皇子の二人の息子を殺した中大兄皇子にたいして、古人大兄皇子は手を合わせて涙を流し、韓人の豊璋が鞍作臣(入鹿)を殺したのだろう、と問いかけます。幼い頃、古人大兄皇子と楽しく魚捕りをしていたことを思い出した中大兄皇子は悲しそうな表情を浮かべますが、ついに古人大兄皇子の首を刎ねます。すると、古人大兄皇子の首だけではなく蘇我入鹿の首も空中に浮かび、中大兄皇子は恐怖にかられます。この中大兄皇子の回想場面は、事実そのものというよりも、事実を反映した夢と考えるべきなのでしょう。
中大兄皇子にとって、入鹿の殺害ほどではなさそうですが、古人大兄皇子を殺したことは心の傷になっているようで、これは今後の物語において重要な役割を果たすように思われます。壬申の乱はこの作品の山場となりそうですが、壬申の乱前夜の中大兄皇子と大海人皇子との心理戦も大いに盛り上がりそうで、大海人皇子が出家して吉野に隠遁しようとする場面では、中大兄皇子の決断に、同じく出家して吉野に隠遁した古人大兄皇子を殺害したことが大きな影響を与えるのではないか、と予想しています。
また、大海人皇子が病床の天智天皇に次の大君(大王、天皇)を倭姫王とするよう進言したことが、この作品では天智天皇と大海人皇子との心理戦としてどのように描かれるのか、ということも大いに注目しています。もっとも、倭姫王が登場するのか、まだ確定したわけではありませんが、これまでの話の流れでは、間人皇女と同様に言及されなくても不思議はなさそうな古人大兄皇子がわざわざ描かれていることから、その娘の倭姫王が登場する可能性は高いように思います。その場合、倭姫王が誰に養育され、どのような経緯で天智天皇の皇后となったのか、作中での描写に注目しています。単純に贖罪の意味で天智天皇が倭姫王を皇后にしたという話だと面白くなさそうですが、どうなるでしょうか。
倭姫王についての記録は少なく、事績・人物像についてはほとんど不明というのが現状でしょう。なぜ謀反人の娘がその父の仇とも言うべき天智天皇の皇后となったのか(二人は叔父と姪の関係となります)、天智天皇との婚姻関係はいつ成立したのか、母親は誰なのか、どの氏族に養育されたのかなど、倭姫王には多くの謎があります。その意味では、創作のやりがいのある人物とも言えるわけで、この作品では天智天皇との関係がどう描かれるのか、大いに注目しています。なお、倭姫王を主人公とした漫画があるそうで(長岡良子『夢の奥城』)、古い作品なので入手は難しそうですが、入手できたら読んでみるつもりです。
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