『天智と天武~新説・日本書紀~』今後の展開の予想

 まだ日付は変わっていないのですが、4月5日分の記事として掲載しておきます。現在15話まで進んでおり、第16話にて大海人が皇子として公認されることになるようです。
https://sicambre.seesaa.net/article/201303article_28.html

 第16話はこの作品の転機になりそうな気がするので、話が大きく動く(かもしれない)前に、今後の展開を予想(というか妄想)してみます。現時点では、平城京に遷都した時点で、藤原不比等が絶大な権力を握っており、史書の内容も自分に都合のよいように編纂できる、ということが明かされています。今後の展開を予想するさいには、この設定に上手くつながるような話の流れを考えねばなりません。その不比等の父である藤原(中臣)鎌足は、百済の王族である豊璋だとされており、この豊璋は、どうも扶余豊璋(余豊璋、余豊)のようです。

 蘇我入鹿と宝皇女(皇極・斉明帝)との間に生まれた大海人(月皇子)にとって、豊璋は父の仇ですが、その豊璋の息子の不比等は、入鹿を極悪人として史書に残すよう、官人に命じています。単純に考えると、大海人(天武帝)は豊璋を直接殺害するか間接的に死に追いやり、豊璋の子の不比等を冷遇したものの、不比等は鸕野讚良皇女(持統帝)に引き立てられて出世し、皇族との姻戚関係を築いて絶大な権力を握り、大海人への復讐として、入鹿を極悪人として史書に残すよう命じた、という展開を予想してしまいます。

 その場合重要な役割を果たしそうなのが、鸕野讚良皇女(現時点ではまだ登場していません)です。大田皇女・鸕野讚良皇女という同父同母の姉妹はともに大海人と婚姻関係を結びましたが、大海人は大田皇女のほうを寵愛していて、大田皇女が先に亡くなったために鸕野讚良皇女は大海人(天武帝)の皇后となったものの、大海人への複雑な想いを抱いていており、大海人の死後に大海人を裏切って不比等を重用し、大海人に復讐しようとする不比等とともに、入鹿の名誉回復を阻んだ、という話になりそうな気がします。

 ただ、これではあまりにも単純だと思いますので、もう少しひねった設定になるかもしれない、とも思います。第16話にて大海人が皇子として公認されることになるようですが、現在残る文献に拠るかぎりでは、古代でも、父親が王族でなければ、王族として公認されることも、大王(天皇)に即位することもできなかったようです。また、宝皇女の「不義」を公認するわけにもいかないでしょうから、大海人は舒明帝の息子、つまり中大兄皇子の同父同母弟ということにされるのかもしれません。それでも、朝廷の要人のなかには「真相」を知っている者が少なくないのでしょうが、宝皇女(斉明帝)の願いにより大海人が皇子として公認されるとのことですから、朝廷の要人も建前としてそれを受け入れることになりそうです。

 大海人がどのような思惑から皇子として公認されることを受け入れるのか、次回以降を読んでみないと分かりませんが、大海人が権力への執着を強めていくような展開になると、皇子と認定されたことは大きな意味を持ってくることになります。蘇我入鹿の息子では大君(大王、天皇)に即位できませんから、大海人は自分を舒明帝と宝皇女(皇極・斉明帝)との間の子と表向きには主張し続けて即位し、周囲も(その一部は「真相」を知りつつも)それを受け入れていく、ということになるのかもしれません。権力の亡者となった大海人は、復讐心を忘れはしないものの、父である入鹿の無念を晴らすには、父の志を大君として実現すればよい、と考えるようになるのかもしれません。

 この場合、入鹿を逆賊としたままで、聖徳太子という創作上の人物に入鹿の事績・言動を反映させたのは、大海人への復讐を図る不比等一人というよりは、大海人も含めた当時の朝廷の支配層ということになりそうです。もっとも、このように想定すると、入鹿は唐との交流を重視していたのに、天武朝では唐との公的な交流が途絶えてしまったことを上手く説明できません。こうした予想・妄想がどのていど的中するのか分かりませんし、予想に自信があるわけではありませんが、『イリヤッド』の連載中がそうだったように、謎解き的な性格のある作品が連載中に、結末やその後の展開を予想するのは楽しいので、つい述べてしまった次第です。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック