フロレシエンシスの脳サイズの見直し
まだ日付は変わっていないのですが、4月19日分の記事として掲載しておきます。ホモ=フロレシエンシスの脳サイズの見直しと、その人類進化史における位置づけについての研究(Kubo et al., 2013)が報道されました。この研究は、日本の国立科学博物館の研究者によるもので、オンライン版での先行公開となります。まだざっとしか読んでいませんが、興味深い研究だと思います。この研究では、高解像度マイクロCTスキャンにより、フロレシエンシスの基準標本であるLB1の脳サイズが正確に測定され、約426ccという結果が得られました。LB1の脳サイズは、当初380ccと推定され(Brown et al.,2004)、後に417ccと見直されましたが(Falk et al.,2005)、この研究での見直しにより、さらに推定サイズが大きくなりました。
この研究は、約426ccというLB1の新たな脳サイズを他の人類のそれと比較することにより、フロレシエンシスの人類進化史における位置づけについて、ジャワの初期ホモ=エレクトスから進化したのではないか、という見解を提示しています。完新世の現生人類(ホモ=サピエンス)との比較では、世界の20の集団から得られた小さな脳サイズの人々も含むデータが用いられ、LB1の脳サイズが病変ではない、とされています。LB1を含むインドネシア領フローレス島の更新世の人骨群については、病変の現生人類(ホモ=サピエンス)ではないか、との見解が今でも一部で根強く主張されているのですが、そうした見解が改めて退けられています。
LB1が病変の現生人類ではなく新種フロレシエンシスだという見解が今では優勢なのですが、ではフロレシエンシスがどの人類種から進化したのかというと、大別して二つの見解が提示されています。一つは、エレクトスが島嶼化により小型化し、フロレシエンシスへと進化したという見解です。もう一つは、エレクトスよりもさらに原始的特徴を有する、ホモ=ハビリス(原始的な特徴を有することから、アウストラロピテクス属と分類する見解もあります)的な人類が進化した、という見解です。後者の場合、前者と比較して、脳サイズの減少率は小さくなるのですが、ハビリス的な人類化石がユーラシア東部では発見されていないのが難点となります。
この研究では、化石証拠の問題もあり、上述したように、フロレシエンシスがジャワの初期エレクトスから進化した、という見解が主張されています。その理由は、他の人類の脳と体のサイズとの比較からも、LB1の小さな脳サイズはあり得るということと、ジャワの初期エレクトスの平均脳サイズは860ccで、エレクトスの一般的なそれ(991cc)よりも小さく、この研究でのLB1の脳サイズの見直しにより、エレクトスからフロレシエンシスへの進化が、より説明しやすくなった、ということによります。しかしこの研究では、フロレシエンシスがどの人類種から進化したのか、もっと確実に推測するためには、フローレス島へ最初に植民した人類(おそらく、少なくとも100万以上前のことでしょう)の骨の発見が必要だ、とも指摘されています。
以上、ざっとこの研究について見てきましたが、近年では、フロレシエンシスはエレクトスよりもさらに原始的な特徴を有する人類から進化したのではないか、との見解を支持する研究者も少なからずいるように思えるので、この研究が今後の議論にどのような影響を与えるのか、注目しています。フロレシエンシスがエレクトスから進化したという見解が、現時点ではもっとも有力とされているのかもしれませんが、グルジアにはエレクトスよりも脳サイズが小さく原始的な特徴を有する人類(ドマニシ人)が進出しているので、今後ドマニシ人のような人類が東南アジアで発見される可能性は無視できるほど低いものでもなく、そうした人類がフロレシエンシスの祖先だったかもしれない、という見解も、私はまだ捨てきれません。
参考文献:
Brown P. et al.(2004): A new small-bodied hominin from the Late Pleistocene of Flores, Indonesia. Nature, 431, 1055-1061.
http://dx.doi.org/10.1038/nature02999
Falk D. et al.(2005): The Brain of LB1, Homo floresiensis. Science, 308, 5719, 242-245.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1109727
Kubo D. et al.(2013): Brain size of Homo floresiensis and its evolutionary implications. Proceedings of the Royal Society B, 280, 1760, 20130338.
http://dx.doi.org/10.1098/rspb.2013.0338
この研究は、約426ccというLB1の新たな脳サイズを他の人類のそれと比較することにより、フロレシエンシスの人類進化史における位置づけについて、ジャワの初期ホモ=エレクトスから進化したのではないか、という見解を提示しています。完新世の現生人類(ホモ=サピエンス)との比較では、世界の20の集団から得られた小さな脳サイズの人々も含むデータが用いられ、LB1の脳サイズが病変ではない、とされています。LB1を含むインドネシア領フローレス島の更新世の人骨群については、病変の現生人類(ホモ=サピエンス)ではないか、との見解が今でも一部で根強く主張されているのですが、そうした見解が改めて退けられています。
LB1が病変の現生人類ではなく新種フロレシエンシスだという見解が今では優勢なのですが、ではフロレシエンシスがどの人類種から進化したのかというと、大別して二つの見解が提示されています。一つは、エレクトスが島嶼化により小型化し、フロレシエンシスへと進化したという見解です。もう一つは、エレクトスよりもさらに原始的特徴を有する、ホモ=ハビリス(原始的な特徴を有することから、アウストラロピテクス属と分類する見解もあります)的な人類が進化した、という見解です。後者の場合、前者と比較して、脳サイズの減少率は小さくなるのですが、ハビリス的な人類化石がユーラシア東部では発見されていないのが難点となります。
この研究では、化石証拠の問題もあり、上述したように、フロレシエンシスがジャワの初期エレクトスから進化した、という見解が主張されています。その理由は、他の人類の脳と体のサイズとの比較からも、LB1の小さな脳サイズはあり得るということと、ジャワの初期エレクトスの平均脳サイズは860ccで、エレクトスの一般的なそれ(991cc)よりも小さく、この研究でのLB1の脳サイズの見直しにより、エレクトスからフロレシエンシスへの進化が、より説明しやすくなった、ということによります。しかしこの研究では、フロレシエンシスがどの人類種から進化したのか、もっと確実に推測するためには、フローレス島へ最初に植民した人類(おそらく、少なくとも100万以上前のことでしょう)の骨の発見が必要だ、とも指摘されています。
以上、ざっとこの研究について見てきましたが、近年では、フロレシエンシスはエレクトスよりもさらに原始的な特徴を有する人類から進化したのではないか、との見解を支持する研究者も少なからずいるように思えるので、この研究が今後の議論にどのような影響を与えるのか、注目しています。フロレシエンシスがエレクトスから進化したという見解が、現時点ではもっとも有力とされているのかもしれませんが、グルジアにはエレクトスよりも脳サイズが小さく原始的な特徴を有する人類(ドマニシ人)が進出しているので、今後ドマニシ人のような人類が東南アジアで発見される可能性は無視できるほど低いものでもなく、そうした人類がフロレシエンシスの祖先だったかもしれない、という見解も、私はまだ捨てきれません。
参考文献:
Brown P. et al.(2004): A new small-bodied hominin from the Late Pleistocene of Flores, Indonesia. Nature, 431, 1055-1061.
http://dx.doi.org/10.1038/nature02999
Falk D. et al.(2005): The Brain of LB1, Homo floresiensis. Science, 308, 5719, 242-245.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1109727
Kubo D. et al.(2013): Brain size of Homo floresiensis and its evolutionary implications. Proceedings of the Royal Society B, 280, 1760, 20130338.
http://dx.doi.org/10.1098/rspb.2013.0338
この記事へのコメント