伊藤聡『神道とは何か 神と仏の日本史』

 まだ日付は変わっていないのですが、3月31日分の記事として掲載しておきます。中公新書の一冊として、中央公論新社から2012年4月に刊行されました。本書では古代から近世にいたる神道の形成過程が叙述されていますが、著者の専攻ということもあってか、おもに扱われているのは中世です。近年では、日本思想史についての専門家による一般向け書籍のほとんどで、仏教伝来前より日本列島で連綿と続いてきた神道、という一昔前には一般層によく浸透していた俗説(今でもそれなりに影響力がある、と言えるかもしれませんが)が批判されているというか、それに依拠しない見解が提示されていますが、それは本書でも同様です。

 本書で神道の形成過程において重視されているのは神道の仏教からの独立であり、その画期は吉田神道の確立する15世紀後半だと主張されています。もちろん本書では、その吉田神道が古代からの神道の伝統を「純粋に」伝えてきて発展させたのではなく、神仏習合の浸透した中世社会の思想状況の産物だったと主張されており、そのために中世の思想状況が詳しく解説されています。この吉田神道も、近世には「仏教臭」が国学的な立場から批判されるようになり、神道は固有性の志向を強めていった、と本書では指摘されています。もちろん、神道が固有性の志向を強めていったとはいっても、本書で指摘されているように、現代の神道の信仰の姿は原始的な自然崇拝の残存ではなく、歴史的に再解釈・再配置された結果として装われた「古代」ということになります。

 本書では近世の神道についての叙述は分量が少ないのですが、吉田神道批判の前提として、近世における出版業の隆盛が指摘されているのは、なかなか興味深いと思います。出版業の隆盛により古典の比較検討が多くの人々に可能となり、神仏習合的な中世の思想におけるこじつけ的な言説が批判的に検証されるようになりました。これは神道に密接には関わらない分野でも同様のことで、合理主義的・考証学的思潮が浸透することになり、中世と近世とを分かつ重要な指標の一つと言えそうです。また、こうした思潮も、近代を準備したものの一つとも言えるでしょう。

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