『天智と天武~新説・日本書紀~』第15話「皇位継承者」
これは3月28日分の記事として掲載しておきます。『ビッグコミック』2013年4月10日号掲載分の感想です。中大兄皇子らは、孝徳帝を置き去りにして飛鳥に戻りました。飛鳥の河辺行宮の中大兄皇子の邸宅では、庭の掃除を行なう大海人を、中大兄皇子が見つめていました。前回、大海人は中大兄皇子を押し倒して抱き着き、涙を流しながら切なそうな表情で、置き去りにしましたね、捨てられたかと思いました、と言ったのですが、入鹿にたいして愛憎の入り混じった複雑な感情を抱いている中大兄皇子は、入鹿にそっくりの大海人にたいしても、入鹿の息子として危険視する一方で、愛情というか欲情も抱いているのでしょう。
豊璋が中大兄皇子に何か報告をしているのですが、中大兄皇子は大海人に気を取られて上の空です。中大兄皇子の入鹿にたいする複雑な想いを理解している豊璋は、中大兄皇子が大海人に気を取られていることを悟り、大海人の話題を持ち出して、中大兄皇子が自分の話に耳を傾けるよう図ります。難波長柄豊碕宮に取り残された孝徳帝が、息子の有間皇子の行く末を案じて大海人に後を託した、という噂を持ち出した豊璋は、孝徳帝が崩御すれば、有間皇子は中大兄皇子と同じく皇位継承者候補になる、と指摘します。猜疑心の強い中大兄皇子の性格をよく理解したうえでの、豊璋の発言です。
中大兄皇子の従者として食器を洗っていた大海人の前に、その配下?の鵲が現れ、孝徳帝の崩御を報せます。大海人は、有間皇子を支えるよう鵲に命じ、悔しそうな表情を浮かべます。仕事を終えた大海人は難波長柄豊碕宮に赴き、孝徳帝の亡骸に接しますが、その側では有間皇子が泣き続けていました。有間皇子は泣きながら、父を孤独と死に追いやった中大兄皇子が憎い、と言います。大海人は、有間皇子に同情しつつも、その立場上、言動には注意するよう諭します。有間皇子は、何が悪い、本心だ、と反発しますが、死にたくなければ自分の言うことを聞くように、と大海人は有間皇子に忠告します。有間皇子は外見も言動もいかにも雑魚キャラといった感じで、とても中大兄皇子相手に勝てそうにありません。まあ、通説準拠だとこうした描写でもよいのかな、とも思います。
難波長柄豊碕宮に置き去りにされた孝徳帝が崩御したと聞いた人々は、孝徳帝に同情し、中大兄皇子の冷たい仕打ちに反感を抱いて、次の大君(天皇)に中大兄皇子がなるようだと、中大兄皇子はきっと祟られるだろう、と噂します。しかし、中大兄皇子は無邪気というか意気軒昂で、孝徳帝崩御をたいへん喜び、これで我々の天下だ、と豊璋に語りかけます。ところが豊璋は冷ややかに、それは次の大君次第だと言い、自分が大君になるものだと思い込んでいた中大兄皇子は、豊璋に発言の意図を問い質します。豊璋は、大君候補として中大兄皇子だけではなく有間皇子の名も挙げますが、有間皇子はまだ15歳だといって中大兄皇子は一笑に付します。
世間は必ずしもそうは見ていないようだ、と言う豊璋にたいして、ではさっさと殺してしまえ、と中大兄皇子は呑気に言います。その大義名分を中大兄皇子に問いただした豊璋は、大君を決める評議会の面々は世間そのものであり、世間を侮ってはならない、孝徳帝を死に追いやったという噂のある中大兄皇子より、悲劇の孝徳帝遺児という同情が有間皇子に集まることもある、と中大兄皇子に指摘するのですが、中大兄皇子は、気分が悪いからもう寝るといって立ち去ろうとします。なおも、悪い噂は身を滅ぼしかねない、ほとぼりが冷めるまで大君の座は辞退するように、と諫言を続ける豊璋を無視し、中大兄皇子は寝所へと向かいます。
中大兄皇子が寝所に向かうと、大海人が支度を整えていました。支度はすんだので、と言って大海人が退室しようとすると、中大兄皇子は大海人の腕をつかみ、そなたも有間皇子の味方らしいな、と問いかけます。すると、大海人は笑い出し、どう答えようとご機嫌を損ねそうですが、と言います。中大兄皇子が苛立った様子を見せると、大海人はさらに挑発するように、嫉妬ですか、と問いかけます。激昂した中大兄皇子が、黙れと言って大海人の腕を強くつかみますが、身体能力・武術に優れている大海人はあっさりと中大兄皇子の関節をきめ、放さぬか、と激昂する中大兄皇子にたいして、すでに玉座は中大兄皇子の手中にあり、取るに足らぬ有間皇子に構うな、と言って立ち去ります。
河辺行宮では、次の大君を決める会議が開催され、中大兄皇子・豊璋・有間皇子・宝皇女(皇極天皇)も出席していました。中大兄皇子を推す者もいますが、有間皇子を推す者もおり、15歳という有間皇子の若さを指摘する見解も提示されますが、それにたいして、群臣が補佐すればよいとの反論もなされます。有間皇子を推す人々が少なくないことから、有間皇子は強気な表情を浮かべて中大兄皇子を睨みます。すると中大兄皇子が立ち上がり、自分は若輩の未熟者なので次の大君になる気はない、最も相応しいのは自分の母の宝皇女だ、と言って宝皇女も群臣も有間皇子も驚愕し、中大兄皇子が得意げな表情を浮かべるところで今回は終了です。
今回は、孝徳帝の次の大君の座をめぐる、中大兄皇子と大海人の心理戦が展開され、派手な展開や謎解きはありませんでしたが、たいへん面白くなっていました。大海人の中大兄皇子への「進言」と、孝徳帝の次の大君に母の宝皇女を推す中大兄皇子の決断の意図については、今回だけではよく分からないところがあり、次回以降どう説明されるのか、楽しみです。大海人の中大兄皇子への「進言」は、中大兄皇子にたいして世間の冷たい視線が向けられているなか、中大兄皇子が即位して逆風下で失脚することを意図してのものだ、とも解釈できますが、中大兄皇子の大海人とその父の入鹿にたいする複雑な想いと、中大兄皇子の猜疑心の強い性格を大海人が把握したうえで、中大兄皇子が次の大君になるのを避けるだろうと予想し、有間皇子を守る時間を稼ごうとした、とも考えられます。
中大兄皇子が次の大君に母を推薦したのは、豊璋の忠告を受け入れたということもあるのでしょうが、入鹿の息子ということでやはり大海人を警戒しているためでもあろう、と思います。また、自分が若輩だということを理由に大君の座を辞退することにより、さらに若い有間皇子(作中では明示されていませんが、通説準拠でこのとき中大兄皇子が29歳だとすると、有間皇子は中大兄皇子より14歳下ということになります)の即位の可能性を潰す、という目的もあったのでしょう。さらに、息子の自分を恐れている母ならば、再度大君に即位させても、自分が実権を握ることができる、という考えもあるのかもしれません。
今後も、中大兄皇子と大海人の心理戦は続きそうで、それを通説とどう絡めていくのか、たいへん楽しみです。今回も孝徳帝の皇后(大后)だった間人皇女は登場せず、ここまで登場しないどころか一切言及されていないことを考えると、この作品で今後触れられることはないのでしょう。分かりやすくするために、重要人物でも省略する、ということなのかもしれません。次回は巻頭カラーとのことで、16話にして4回目(第1話・第5話・第11話・第16話)の巻頭カラーですから、この作品は評判がよいのかもしれません。そうだとすると、この作品を長く読み続けたい私にとっては嬉しいことです。次回の予告は、
暗黒の歴史は古来より今に至る
母親をめぐって虚々実々の駆け引きが・・・!?自分が大君(天皇)になるのは時期尚早と判断した中大兄皇子は、母親を再び大君の座に着ける奇策に出た!一方、その母親のたっての頼みで、兄の召使いだった大海人は正式に“皇子”となる。中大兄皇子と大海人皇子、この兄弟の対決、ますます激化・・・?
となっており、ついに大海人が皇族(王族)として公認されるようです。現在残る文献に拠るかぎりでは、古代でも、父親が王族でなければ、王族として公認されることも、大王(天皇)に即位することもできなかったようですが、蘇我王朝説が採用されていないこの作品ではどうなるのでしょうか。大海人を王族として公認するにしても、宝皇女の「不義」を公認することはできないでしょうし、何よりも「逆賊」の子であることを公認するわけにもいかないということで、大海人は中大兄皇子の同父同母弟ということにされるのかもしれません。ともかく、次号もたいへん楽しみです。
豊璋が中大兄皇子に何か報告をしているのですが、中大兄皇子は大海人に気を取られて上の空です。中大兄皇子の入鹿にたいする複雑な想いを理解している豊璋は、中大兄皇子が大海人に気を取られていることを悟り、大海人の話題を持ち出して、中大兄皇子が自分の話に耳を傾けるよう図ります。難波長柄豊碕宮に取り残された孝徳帝が、息子の有間皇子の行く末を案じて大海人に後を託した、という噂を持ち出した豊璋は、孝徳帝が崩御すれば、有間皇子は中大兄皇子と同じく皇位継承者候補になる、と指摘します。猜疑心の強い中大兄皇子の性格をよく理解したうえでの、豊璋の発言です。
中大兄皇子の従者として食器を洗っていた大海人の前に、その配下?の鵲が現れ、孝徳帝の崩御を報せます。大海人は、有間皇子を支えるよう鵲に命じ、悔しそうな表情を浮かべます。仕事を終えた大海人は難波長柄豊碕宮に赴き、孝徳帝の亡骸に接しますが、その側では有間皇子が泣き続けていました。有間皇子は泣きながら、父を孤独と死に追いやった中大兄皇子が憎い、と言います。大海人は、有間皇子に同情しつつも、その立場上、言動には注意するよう諭します。有間皇子は、何が悪い、本心だ、と反発しますが、死にたくなければ自分の言うことを聞くように、と大海人は有間皇子に忠告します。有間皇子は外見も言動もいかにも雑魚キャラといった感じで、とても中大兄皇子相手に勝てそうにありません。まあ、通説準拠だとこうした描写でもよいのかな、とも思います。
難波長柄豊碕宮に置き去りにされた孝徳帝が崩御したと聞いた人々は、孝徳帝に同情し、中大兄皇子の冷たい仕打ちに反感を抱いて、次の大君(天皇)に中大兄皇子がなるようだと、中大兄皇子はきっと祟られるだろう、と噂します。しかし、中大兄皇子は無邪気というか意気軒昂で、孝徳帝崩御をたいへん喜び、これで我々の天下だ、と豊璋に語りかけます。ところが豊璋は冷ややかに、それは次の大君次第だと言い、自分が大君になるものだと思い込んでいた中大兄皇子は、豊璋に発言の意図を問い質します。豊璋は、大君候補として中大兄皇子だけではなく有間皇子の名も挙げますが、有間皇子はまだ15歳だといって中大兄皇子は一笑に付します。
世間は必ずしもそうは見ていないようだ、と言う豊璋にたいして、ではさっさと殺してしまえ、と中大兄皇子は呑気に言います。その大義名分を中大兄皇子に問いただした豊璋は、大君を決める評議会の面々は世間そのものであり、世間を侮ってはならない、孝徳帝を死に追いやったという噂のある中大兄皇子より、悲劇の孝徳帝遺児という同情が有間皇子に集まることもある、と中大兄皇子に指摘するのですが、中大兄皇子は、気分が悪いからもう寝るといって立ち去ろうとします。なおも、悪い噂は身を滅ぼしかねない、ほとぼりが冷めるまで大君の座は辞退するように、と諫言を続ける豊璋を無視し、中大兄皇子は寝所へと向かいます。
中大兄皇子が寝所に向かうと、大海人が支度を整えていました。支度はすんだので、と言って大海人が退室しようとすると、中大兄皇子は大海人の腕をつかみ、そなたも有間皇子の味方らしいな、と問いかけます。すると、大海人は笑い出し、どう答えようとご機嫌を損ねそうですが、と言います。中大兄皇子が苛立った様子を見せると、大海人はさらに挑発するように、嫉妬ですか、と問いかけます。激昂した中大兄皇子が、黙れと言って大海人の腕を強くつかみますが、身体能力・武術に優れている大海人はあっさりと中大兄皇子の関節をきめ、放さぬか、と激昂する中大兄皇子にたいして、すでに玉座は中大兄皇子の手中にあり、取るに足らぬ有間皇子に構うな、と言って立ち去ります。
河辺行宮では、次の大君を決める会議が開催され、中大兄皇子・豊璋・有間皇子・宝皇女(皇極天皇)も出席していました。中大兄皇子を推す者もいますが、有間皇子を推す者もおり、15歳という有間皇子の若さを指摘する見解も提示されますが、それにたいして、群臣が補佐すればよいとの反論もなされます。有間皇子を推す人々が少なくないことから、有間皇子は強気な表情を浮かべて中大兄皇子を睨みます。すると中大兄皇子が立ち上がり、自分は若輩の未熟者なので次の大君になる気はない、最も相応しいのは自分の母の宝皇女だ、と言って宝皇女も群臣も有間皇子も驚愕し、中大兄皇子が得意げな表情を浮かべるところで今回は終了です。
今回は、孝徳帝の次の大君の座をめぐる、中大兄皇子と大海人の心理戦が展開され、派手な展開や謎解きはありませんでしたが、たいへん面白くなっていました。大海人の中大兄皇子への「進言」と、孝徳帝の次の大君に母の宝皇女を推す中大兄皇子の決断の意図については、今回だけではよく分からないところがあり、次回以降どう説明されるのか、楽しみです。大海人の中大兄皇子への「進言」は、中大兄皇子にたいして世間の冷たい視線が向けられているなか、中大兄皇子が即位して逆風下で失脚することを意図してのものだ、とも解釈できますが、中大兄皇子の大海人とその父の入鹿にたいする複雑な想いと、中大兄皇子の猜疑心の強い性格を大海人が把握したうえで、中大兄皇子が次の大君になるのを避けるだろうと予想し、有間皇子を守る時間を稼ごうとした、とも考えられます。
中大兄皇子が次の大君に母を推薦したのは、豊璋の忠告を受け入れたということもあるのでしょうが、入鹿の息子ということでやはり大海人を警戒しているためでもあろう、と思います。また、自分が若輩だということを理由に大君の座を辞退することにより、さらに若い有間皇子(作中では明示されていませんが、通説準拠でこのとき中大兄皇子が29歳だとすると、有間皇子は中大兄皇子より14歳下ということになります)の即位の可能性を潰す、という目的もあったのでしょう。さらに、息子の自分を恐れている母ならば、再度大君に即位させても、自分が実権を握ることができる、という考えもあるのかもしれません。
今後も、中大兄皇子と大海人の心理戦は続きそうで、それを通説とどう絡めていくのか、たいへん楽しみです。今回も孝徳帝の皇后(大后)だった間人皇女は登場せず、ここまで登場しないどころか一切言及されていないことを考えると、この作品で今後触れられることはないのでしょう。分かりやすくするために、重要人物でも省略する、ということなのかもしれません。次回は巻頭カラーとのことで、16話にして4回目(第1話・第5話・第11話・第16話)の巻頭カラーですから、この作品は評判がよいのかもしれません。そうだとすると、この作品を長く読み続けたい私にとっては嬉しいことです。次回の予告は、
暗黒の歴史は古来より今に至る
母親をめぐって虚々実々の駆け引きが・・・!?自分が大君(天皇)になるのは時期尚早と判断した中大兄皇子は、母親を再び大君の座に着ける奇策に出た!一方、その母親のたっての頼みで、兄の召使いだった大海人は正式に“皇子”となる。中大兄皇子と大海人皇子、この兄弟の対決、ますます激化・・・?
となっており、ついに大海人が皇族(王族)として公認されるようです。現在残る文献に拠るかぎりでは、古代でも、父親が王族でなければ、王族として公認されることも、大王(天皇)に即位することもできなかったようですが、蘇我王朝説が採用されていないこの作品ではどうなるのでしょうか。大海人を王族として公認するにしても、宝皇女の「不義」を公認することはできないでしょうし、何よりも「逆賊」の子であることを公認するわけにもいかないということで、大海人は中大兄皇子の同父同母弟ということにされるのかもしれません。ともかく、次号もたいへん楽しみです。
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