『天智と天武~新説・日本書紀~』第13話「大見得」

 これは2月27日分の記事として掲載しておきます。『ビッグコミック』2013年3月10日号掲載分の感想です。今回は中大兄皇子が都を飛鳥へ戻すよう孝徳帝に進言し、それを拒否した孝徳帝を難波に置き去りにして、群臣たちを率いて飛鳥に戻る話が描かれたのですが、私にとってはあっさりとした描写になっており、拍子抜けしました。正直なところ、前回がかなり濃密な内容で盛り上がり、今回への期待が大きかっただけに、今回はやや期待外れだった感が否めませんが、それでもなかなか面白く、今後も大いに楽しみです。

 中大兄皇子は、孝徳帝が自分の進言を聞き入れず、蘇我入鹿の政治方針を継承することに不満を募らせており、そのこともあってか、難波の地を好きにはなれません。雨の中、中大兄皇子は難波長柄豊碕宮に参上し、孝徳帝に遣唐使船の廃止と新羅の王子の追放を進言しますが、孝徳帝はこれを棄却し、中大兄皇子は怒りに満ちた表情を見せ、その場にいた群臣は怯え、孝徳帝が入鹿の二の舞になることを案じます。手詰まりの状況でどうするのか、才人の豊璋にも名案は浮かばないようですが、中大兄は自信ありげです。

 中大兄皇子は大海人を孝徳帝に改めて進言に行こうとしますが、大海人が邪魔で遠ざけたいということなのか、私物を地方豪族に売るよう、大海人に命じます。中大兄皇子から目を離したくない大海人は、気づかれないよう中大兄皇子の御輿の担ぎ手となり、難波長柄豊碕宮に潜入します。中大兄皇子は、刀の持ち込みはならぬという警護の兵を威嚇して宮殿に入り、孝徳帝に飛鳥に都を戻すよう進言しますが、孝徳帝はそれを退けます。中大兄皇子は、難波長柄豊碕宮が蘇我馬子により建てられた外交館に始まることを指摘しますが、孝徳帝はだから何だ!?と言って、改めて都を飛鳥に戻す意思のないことを宣言します。

 すると中大兄皇子は刀を抜き、逆賊の入鹿の首を斬った刀だと高らかに宣言し、この刀が飛鳥に帰りたいと言っている、と力強く述べ立て、群臣にどうするか選択を迫ります。すると、怯えた群臣は中大兄皇子に付き従い、孝徳帝と密かにこの様子を見ていた大海人は愕然とし、中大兄皇子が飛鳥に都を戻すことを高らかに宣言する、というところで今回は終わりです。正直なところ、飛鳥への還都があまりにもあっさりとした描写だったのには拍子抜けしましたが、漫画的な演出と言えるかもしれません。群臣が中大兄皇子に従ったのは、中大兄皇子を恐れていたからなのでしょうが、なぜそこまで中大兄皇子が恐れられているのか、どうもよく分かりません。才能・野心・行動力・気性の激しさ・猜疑心の強さといった個性とともに、次期大君(天皇)位が有力視されているという将来性のためでしょうか。

 単行本第1巻の発売が迫り、以前取り上げた第1話の試し読みよりも長くというか、第1話をすべて読むことができたのですが、乙巳の変の前の時点ですでに中大兄皇子は他の人々から恐れられており、唯一恐れていないのが入鹿という設定のようです。それならば、今回描かれた群臣の行動にも説得力があるのですが、中大兄皇子がなぜ恐れられているのか、私がまだ読んでいない話のなかですでに説明されているのでしょうか。この第1話はひじょうに面白いのですが、詳しくは単行本第1巻の刊行後に取り上げることにします。

 第1話を読んでみて気づいたのですが、以前第9話「月皇子」を取り上げた時の私の解釈は間違っていました。その時の記事では、入鹿が自分の息子で中大兄皇子にとって異母弟となる月皇子(大海人)に会ってくれるよう、中大兄皇子に頼む場面で、入鹿が中大兄皇子に、月皇子に会っていただけるなら自分を如何様にしてもかまわない、と言いますが、この発言を、入鹿は自分がどのような処分も受けることを覚悟している、と私は解釈していました。しかし第1話を読むと、入鹿は中大兄皇子の自分への好意・憧れを知り、自分を抱いても構わない、という意味でそのように発言したように思えます。これも色仕掛けと言うべきなのでしょうか。

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