荒木敏夫『古代天皇家の婚姻戦略』

 まだ日付は変わっていないのですが、2月20日分の記事として掲載しておきます。歴史文化ライブラリーの一冊として、吉川弘文館より2013年1月に刊行されました。本書が扱うのは、古代日本(倭国)の王族(皇族)の婚姻についてです。本書で指摘される古代日本の王族の婚姻の特徴は、閉鎖的だということです。日本古代史に関心のある人ならば、古代日本の王族では近親婚が盛行したことをよく知っているでしょう。本書では、近親婚の盛行は、女性王族の婚姻規制(王族以外の男性との婚姻の禁止)や、ハプスブルク家および漢・唐・新羅などと比較して、古代日本の王族には「国際婚姻」が欠けていることとも関連しており、それぞれ古代日本の王族の婚姻が閉鎖的であることに起因する、と指摘されています。

 女性王族の婚姻規制は平安時代には前代までと比較して緩やかになり、内親王と藤原氏との婚姻も見られるようになります。しかし一方で本書においては、女性王族の婚姻規制は全面的に解除されたわけではなく、平安時代末期の暲子内親王(八条院)のように皇位継承候補者となったり、近世の明正帝(興子内親王)のようにじっさいに即位したりした内親王が未婚であることは、単なる偶然ではなく、8世紀における元正帝(氷高内親王)や孝謙・称徳帝(阿部内親王)が未婚であったことと同根の問題ではないか、と示唆されています。

 ただ、こうした女性王族の婚姻規制をもたらすような王族の婚姻の閉鎖性にはどのような意味があるのか、なぜそのような閉鎖性が生じたのか、という問題については、本書のあとがきにもあるように、考察が充分ではなく、今後の検討課題とされています。また本書では、古代日本の王族の婚姻の閉鎖性とはいっても、雄略朝の頃までは「国際婚姻」が文献記録に見えるという点を重視し、じゅうらいこの問題が軽視されてきたことを指摘しています。ただ、記紀をはじめとして日本の記録における雄略朝の頃の記述にどれだけ信憑性があるのか、という疑問は残りますし、朝鮮半島の現存する文献は、日本よりもかなり後になって編纂されたものであり、5世紀以前の日本(倭国)の王族の周辺諸国との「国際婚姻」については、今後も確たることは言えないだろう、と思います。

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