森公章『古代豪族と武士の誕生』

 まだ日付は変わっていないのですが、1月20日分の記事として掲載しておきます。歴史文化ライブラリーの一冊として、吉川弘文館より2013年1月に刊行されました。本書は4世紀以前にも少し触れていますが、5世紀を起点として中央との関係を軸にしつつ、文献だけではなく考古学的成果も活用して古代豪族の動向を描き出し、鎌倉時代への展望も最後に提示されます。中央と地方という視点が所与の前提になっていることで見落とされるものがあるのではないか、という疑問もありますが、著者の意図している「教科書的書物」としての役割は充分に果たしているのではないか、と思います。ただ、著者も認めるように、武士の誕生に関する見解の提示を期待していた読者は、羊頭狗肉との印象を抱いたかもしれません。本書の見解は、P221にてまとめられています。

 本書で述べてきたことを敷衍すると、三・四世紀は不明だが、五・六世紀は中央集権国家への胎動期、七・八世紀が律令国家の確立期、九・十世紀は律令体制の改変と定着、十一・十二世紀はその変容をふまえた新たな体勢構築期と解することができる。五・六世紀は府官制的秩序の導入から国造制などに帰結、七・八世紀は在地首長である地方豪族になおも依存した評司・郡司制、九・十世紀は受領制の確立と地方豪族の対応、十一・十二世紀は在庁官人制の展開期で、近年では摂関政治と院政を連続するものとしてとらえる見解も呈されており、院政は十三世紀まで実質を持つしくみとして存続するし、中世的国衙機構も南北朝時代くらいまでは有効なようだ。

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