大河ドラマ『平清盛』全体的な感想(4)人物造形と配役(平氏・源氏側以外)

 まだ日付は変わっていないのですが、1月16日分の記事として掲載しておきます。全体的な感想(1)は以下の記事で、
https://sicambre.seesaa.net/article/201301article_5.html
全体的な感想(2)は以下の記事で、
https://sicambre.seesaa.net/article/201301article_7.html
全体的な感想(3)は以下の記事で述べました。
https://sicambre.seesaa.net/article/201301article_10.html

 天皇家には強烈な個性の持ち主がそろいました。実質的な登場が第1回・第2回・第34回のみだった白河院は、強烈な存在感を示すとともに、終盤まで主人公の清盛にとって重荷となり続けました。白河院はこの作品世界における禍の源泉とも言うべき存在であり、主人公の清盛をはじめとして多くの登場人物は、白河院の播いた禍の種に苦しめられました。そうした位置づけの白河院は「物の怪」と表現され、物語後半の清盛は、この物の怪の血の顕現により迷走することになります。白河院役が伊東四朗氏と発表された時には多少不満もありましたが、迫力のある演技でたいへんよかったと思います。白河院の寵愛を受けた祇園女御(乙前)は、配役発表の時点で覚悟していたものの、晩年もきょくたんに若く見えたのは残念でした。

 鳥羽院は魅力的な人物の多いこの作品でも有数の当たりキャラで、鳥羽院役が三上博史氏と発表された時から大いに期待していましたが、繊細なところをじつに上手く表現し、それゆえに発狂した場面を強く印象づけることに成功するなど、期待以上の演技を見せてくれて、大満足でした。ただ、鳥羽院の人物像が璋子(待賢門院)・得子(美福門院)という女性との関係のみに収斂されてしまったところが多分にあり、鳥羽院の権威により朝廷の秩序が保たれていた、という大政治家としての側面がほとんど前面に出なかったのは残念でした。頼長が直接鳥羽院を見下しているような場面が何度か見られ、おそらくじっさいにはそんなことはとてもなかったでしょうが、この作品の鳥羽院ならば頼長に見下されても仕方ないな、と思ったものです。

 崇徳院は最初から最後まで不遇な人として描かれましたが、繊細で和歌に優れた教養人としての側面とともに、権力への執着を垣間見せるところもあり、井浦新氏の好演もあり、ひじょうに魅力的な人物になっていたように思います。崇徳院の最期の演出は賛否両論でしょうが、私の好みには合わなかったものの、悪いというわけではなかったように思います。この作品では色々な人に裏切られた崇徳院でしたが、保元の乱でも崇徳院に付き従った教長の出番はそれなりにあり、教長の存在は崇徳院にとって少ない救いになっていたように思います。

 後白河の初登場は第9回とわりと早く、この時は即位前でした。清盛と後白河が本格的に関わり合うのは、後白河が即位してからのことで、これ以降清盛にとって、義朝・頼朝という武士とともに、後白河も好敵手となりました。ただ後白河の場合、清盛にとっては、好敵手というより相互に利用しつつも乗り越えるべき壁として描かれた側面が強く、その結末が第49回「双六が終わるとき」であり、もはや天下の権を争うのは天皇家・公卿ではなく武士であることが、清盛と後白河との関係を象徴する双六によって示されました。

 後白河(雅仁親王)は当初史実通り皇位継承争いから外れた存在として登場し、それ故に今様にはまるなど気ままな生活を送る奇人変人として描かれました。その後白河が思いもかけず即位する直前、自身が不要な存在なのではないか、との悩みを抱えていることを告白します。これは、第10回「義清散る」での得子の発言を、その時は受け流して気にしていないように見せていたことが伏線になっており、じつは内心悩んでいたことが後になって分かるようになっています。全体的な感想(2)でも述べましたが、こうした伏線の多用もこの作品の特徴となっています。

 即位後の後白河は相変わらずの奇人変人なのですが、自身の存在理由を見出したいということなのか、曾祖父の白河院を超える存在になろうとし、清盛と相互に利用し合いつつ、自身の権力を高めていこうとします。後白河の即位が当時の多くの人々にとって思いもかけないことであったことは作中でも触れられていましたが、後白河は二条帝までの中継ぎとして即位したのであり、廷臣から軽んじられるところも少なからずあった、ということも作中で描かれていれば、後白河の権力志向にもっと説得力が与えられてよかったのになあ、と思います。

 人間心理の洞察に長けている後白河の言動には見応えがありましたが、それは、放送開始前にはこの作品最大の地雷になるのではないか、と懸念していた松田翔太氏の好演が大きかったと思います。『篤姫』の家茂役での演技を見てかなり不安だったのですが、家茂のような優等生ではなく、癖のある人物の役に適しているということなのでしょう。これは配役の勝利と言うべきかもしれません。また、これまで平安時代末期の映像作品ではベテラン男優が演じることの多かった後白河に若い松田氏を起用したことは、作中での後白河の実年齢を考えると、松田氏が好演したという結果に関わりなく、老獪な政治家である後白河という固定観念への意欲的な挑戦と高く評価できるのではないか、と思います。今後も、大河ドラマではこのような固定観念への挑戦を続けてもらいたいものです。

 近衛帝・二条帝・高倉帝は登場期間が短く、とくに近衛帝には見せ場がほとんどありませんでしたが、ネットで検索したかぎりでは、近衛帝・二条帝がこれまで娯楽映像作品に登場することはほとんどなかったようなので、描写不足とはいえ、近衛帝・二条帝の立場と動向がそれなりに説明されたことはよかったのではないか、と思います。二条帝は公式サイトでは賢帝として紹介されていましたが、作中ではそうした描写がほとんどなく、実父の後白河院との対立的関係に主眼が置かれたのは残念でした。高倉帝は誠実な感じで、徳子との夫婦関係は、重盛・経子夫妻とともにこの作品における癒しになっていたように思います。

 鳥羽の中宮である璋子は序盤のメインヒロインとも言うべき存在で、放送開始の少し前に案内本を読むまでは、そうなるとはまったく予想していませんでした。璋子は作中では、白河院とともに世の乱れの元凶とも言うべき役割を担っており、メインヒロインと言っても異端的なところが多分にあったのですが、正統的ヒロインになるべき明子・時子の存在感がやや薄かったこともあり、とにかく強烈な印象を残しました。心が空だった璋子が人並みな感情を持つようになり、ずっとすれ違いだった鳥羽院と最期に心を通わせるという話は面白かったのですが、清盛が主人公ということを考えると、鳥羽院をめぐる女性関係の描写はやや長かったかもしれません。璋子役の檀れい氏のことは放送前にはよく知らなかったのですが、適役だったと思います。配役の勝利と言うべきでしょうか。

 璋子と対立関係にあった得子は、野心溢れる強い女性として描かれましたが、演者の実年齢が璋子とほぼ同じということが放送開始前は疑問でした。しかし、作品が完結した今にして思うと、璋子に負けないだけの迫力・演技力が要求されるということで、松雪泰子氏の起用は大成功だったと思います。作中では、権勢とともに鳥羽院の愛を求め、璋子を失脚させることにも成功した得子でしたが、けっきょく鳥羽院の愛は璋子に向けられており、権勢を振るったとはいえ、やや不遇な扱いを受けた人物のようにも思えます。璋子とともに、こちらも配役の勝利と言うべきでしょうか。得子の娘の八条院(暲子内親王)は、大らかな人物と思っていたのですが、作中では得子の娘らしい強気な女性として描かれました。八条院が娯楽映像作品に登場することは今後もほとんどないでしょうから、この作品の人物像が浸透するとなると、やや残念ではあります。

 滋子(建春門院)は、奇人変人である後白河院に寵愛されたということから、変わった女性という人物造形になりましたが、どうも成功したように思えません。メイクにも演技にも不満が多く、成海璃子氏が演じるということで放送開始前には不安を抱きつつも期待していたのですが、この作品で最大の期待外れの人物となりました。聡明で美しい女性として描いてもらえなかったものだろうか、と残念でなりません。成海氏はあるいは時代劇に向いていないのかもしれませんが、どうも役者として伸び悩んでいるようにも見えます。まだ今後の成長に期待してはいるのですが。

 摂関家には魅力的な人物がそろいましたが、小説版を読むと、本放送では省略された場面が少なからずあるようで、何とも残念です。忠実は出番こそ少なかったものの、存在感はさすがで、前半の平家にとっての高い壁をじつによく象徴的に表現できていたと思います。ただ、本放送では省略されたところがあるので仕方ないところもありますが、頼長との関係をもう少し丁寧に描いておけば頼長との別れがもっと印象深くなったでしょうから、その点が残念ではあります。忠通は、父の忠実や弟の頼長と比較すると地味な人物像になりましたが、作中での伊勢平氏への対応の変化から、伊勢平氏の地位向上を印象づけるという役割を担い、大きな見せ場はなかったのですが、重要な人物だったと思います。

 頼長には配役発表時点で大いに期待していたのですが、脚本家のお気に入りだったようで、人物造形にも力が入れられていたように思われ、期待値以上の出来になったので大いに満足しています。とくに、鸚鵡を使った頼長の描写は見事でした。才知に溢れる隙のない人物として登場した頼長は、死が近づくにつれて情けないところが見られるようになり、最期は悲惨でしたが、厳格すぎる性格が周囲の反感を買い、追いつめられていった感があります。頼長はこの作品最大の当たりキャラで、脚本に力が入っていたということもありますが、とにかく山本耕史氏の演技が見事でした。次に大河ドラマで頼長が登場するのはずいぶんと先になりそうですが、頼長を演じる男優には高い壁ができたように思います。

 忠通の子供たちについては、基実の配役に疑問が残りました。それは、演技力にたいしてではなく、基実は若くして亡くなったのに、40代後半の村杉蝉之介氏を起用したことにたいしてです。ただ、おそらくはこれまで娯楽映像作品ではほとんど登場しなかっただろう基実が登場し、その早過ぎる死が清盛にとって痛手であったと描かれたということだけでも、意義があったと言うべきかもしれません。基実の弟である基房・兼実も存在感を示しましたが、あまりにも戯画化が行き過ぎた感があるのは否めません。これは他の公卿についてもあてはまることが多かったのですが、貴族と武士とを対立的に描くという作品の基本構想に沿ったものなのでしょう。忠通の孫となる基通は出番が少なかったのですが、これまで娯楽映像作品に登場することが少なかったでしょうあから、平家との関係の深さが描かれただけでもよしとすべきでしょうか。

 他の貴族にも、出番は少なくても目立った人物が多く射ました。信西(高階通憲)は主要人物の一人であり、才覚に溢れる野心家としての性格がよく表現されていました。演技自体は、期待していたほどではなかったのですが、悪いということはありませんでした。家保・家成・成親の三代、とくに家成・成親の親子は、出番も多く重要な役割を担いました。家成は、従兄弟の宗子(池禅尼)が忠盛の正妻ということから、伊勢平氏に親切で、やたらと陰険な人間の多い貴族のなかにあって、数少ない良心派という印象を視聴者に与えたように思います。成親は小賢しく世渡りの上手い陰険な人物といった感じで、義弟の重盛を小物と見下していましたが、窮地に陥った時の態度から、成親自身はそれ以上の小物だという印象を受けました。家保・家成・成親の三代は演技もよく、この配役は成功だったと思います。

 家成の養子となった西光(藤原師光)は信西の後継者としての自負を抱き、信西の志を継ぐと自認している清盛と対比させるという脚本・演出はよかったと思いますが、何よりも加藤虎ノ介氏の熱演には見応えがありました。この作品では上位に入る当たりキャラになったと思います。脚本家の力が入っているように思えたのは、脚本家のお気に入りである加藤虎ノ介氏が演じるという前提だったからでしょうか。西光は、清盛の国造りが宋との交易により民も豊かになるという志だけではなく、復讐心によるものでもあるということを明らかにしたという意味でも、重要な役割を担ったと思います。

 その他には、わずか2回だけの登場でしたが、得子の父である長実が、いかにも気弱で無能という感じで、印象に残りました。経宗は、この作品における貴族像をきょくたんに戯画化した人物といった感じで、さすがにやり過ぎといった感は否めませんが、有薗芳記氏の演技力に助けられたところが大いにあるように思います。私は、やり過ぎとは思いつつも有薗氏の演技が楽しみで、経宗の登場を心待ちにしていたものです。経宗が拷問を受けて配流処分とされたことは本放送では触れられませんでしたが、経宗の作中での役回りを考えると、仕方ないかな、とは思います。平治の乱の発端において、その経宗とともにというか、もっとも重要な役割を果たした人物とも言える信頼は、この作品の主要人物には珍しく、よいところがまったくと言ってよいほどなく、情けない無能な悪役として描かれました。もう少しよいところを描いてもよかったように思うのですが。

 宗教関係では、厳島神社の佐伯景弘が、案外目立たず、見せ場がなかったのが残念でした。延暦寺の明雲は、出番こそ少なかったものの、迫力のある演技で存在感を示し、強い印象を残しました。もっと出番があるとよかったのですが。西行(佐藤義清)は、出家してからすっかり存在感が薄くなり、本当に主要人物の一人なのだろうか、と思ったくらいですが、終盤になって存在感を示しました。出家するさいの経緯から、視聴者には印象の悪い人物になってしまったかもしれませんが、晩年の最高権力者となった清盛に直言できるほとんど唯一の人物ということで、終盤になって見せ場が増えたのは何よりでした。放送開始前には不安だった演技も、悪くはなかったと思います。

 まだ取り上げていない重要人物もいるでしょうが、さすがに疲れるので、ここまでにしておきます。テレビドラマとしての全体的な感想は今回で終了となるので、最後に、とくに面白かった回を順番に列挙していきます。なお、場面単位でもっとも面白かったというかよい意味で興奮したのは、全体的な感想(2)でも述べたように、第21回「保元の乱」における帝方と上皇方の軍議との対比です。『孫子』を用いての信西と頼長との違いを浮き彫りにする脚本・演出は、役者の好演もあって、素晴らしい場面になっていたと思います。以下、とくに面白かった回を上位から挙げていきます。

1位:第22回「勝利の代償」
https://sicambre.seesaa.net/article/201206article_4.html
頼長の最期と鸚鵡の使い方が抜群の上手さでした。

2位:第20回「前夜の決断」
https://sicambre.seesaa.net/article/201205article_21.html
平氏・源氏それぞれの別れ・再会・覚悟がよく描かれ、中盤第一の山場である保元の乱に向けての盛り上がりとしては申し分なかった、と思います。

3位:第37回「殿下乗合事件」
https://sicambre.seesaa.net/article/201209article_24.html
重盛の苦悩・挫折感とともに、重盛・経子夫妻の絆が印象に残りました。

4位:第43回「忠と孝のはざまで」
https://sicambre.seesaa.net/article/201211article_6.html
とにかく重盛の熱演が光ります。

5位:第8回「宋銭と内大臣」
https://sicambre.seesaa.net/article/201202article_27.html
初登場の頼長の存在感が強烈でした。

6位:第42回「鹿ヶ谷の陰謀」
https://sicambre.seesaa.net/article/201210article_29.html
西光の熱演と清盛の狂気が見どころです。

7位:第5回「海賊討伐」
https://sicambre.seesaa.net/article/201202article_6.html
鳥羽院と璋子・得子との関係があまりにも刺激的です。

8位:第46回「頼朝挙兵」
https://sicambre.seesaa.net/article/201211article_26.html
清盛の狂気がよく表現されていました。

この記事へのコメント

イリヤのファン
2013年01月15日 21:47
お久しぶりです。平清盛は私も欠かさず視聴しました。重厚な役者陣と伏線の多いストーリーから、私は近年稀に見る名作だと思ったのですが、視聴率は最低となり、残念でなりません。
私は、視聴率が低迷したのは「負のアナウンス効果」が原因ではないかと思います。どこかのバカ知事が「画面が汚い」とコメントし、それが、報道でどんどん広がっていきました。これでは、「汚くない」と思っていた人も「汚い」と思ってしまう。「難しい」とか「面白くない」と報道されると、そう思っていなかった人も番組から離れてしまう(昔の大河ドラマはテロップももっと少なかったので、分かりにくい作品はいくつもありました。)。
逆に「面白い」と評判になると、それまで見ていなかった人も見るようになる。後半になればなるほど高視聴率を叩き出した「家政婦のミタ」がいい例です(私は全く面白いと思わなかったですが。)。結局、周りの評判を気にせず、自分の信念で番組を見続ける人は少ないということです。序盤でもう少し前向きな報道があればよかったと思います。難しいと言えば確かに難しいので、テロップは序盤からどんどん入れておいてもよかったと思います。
いずれにしろ、なじみのない時代のアンチヒーローを取り上げたNHKの挑戦を、私は評価しています。これからも視聴者に媚びずにドラマを作って欲しいと思います。江みたいな作品はいりません。
2013年01月15日 22:08
これはお久しぶりです。

私もこの作品を楽しみに視聴し続けて、高く評価しているのですが、どうも少数派の意見のようです。

まあそれでも、娯楽映像作品は世評に関係なく個人が楽しめたらそれでよいと思います。

テロップは、今にして思うと序盤からどんどん入れておくべきでしたね。

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