人口増加に伴う遺伝的変異の蓄積

 まだ日付は変わっていないのですが、1月11日分の記事として掲載しておきます。完新世における人類の遺伝的変異を推定した研究(Fu et al., 2012)が公表されました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用ですが、完新世になって人口の急増にともない、遺伝的変異の蓄積も増加していった、という見解はすでに広く浸透しているように思います。この研究は、アメリカ人を対象としてヨーロッパ系とアフリカ系とに区分し、塩基配列が解読されたとのことです。この研究によると、また有害と思われる一塩基変異のうち86%が、過去10000~5000年以内に生じた、と推定されるそうです。また、人口の急増は一方で、有益な遺伝的変化をも促進する可能性が高い、とも考えられます。

遺伝: 6,515例のエキソーム分析から、ヒトのタンパク質コード領域にある変異の大部分は起源が比較的新しいことが明らかになった
遺伝: ヒト集団内で最近起こった遺伝的変動
米国立心肺血液研究所(NHLBI)のエキソーム塩基配列解読計画の一環として、欧州系アメリカ人とアフリカ系アメリカ人6,500人以上のエキソームが解読された。 今回これらのデータを使って、タンパク質コード領域内の一塩基変異(SNV)のうち約73%、また有害と思われるSNVのうち86%が、過去5000~1万年以内に生じたものであると推定された。これは進化の歴史から見れば短い期間であり、人口が急激に増加した時期と一致する。有害と推定される変化の約86%がこの同じ時間枠の中で生じており、アフリカ系アメリカ人に比べると欧州系アメリカ人のほうが、必須遺伝子やメンデル型疾患の遺伝子に有害な変異を多く持っている。これらのデータは、最近のヒト集団では変異の起こりうる余地が広がり、それがメンデル型疾患という負担にも影響を与えてきたことを示唆しているが、これは同時に、有益な遺伝的変化をも促進する可能性が高く、今後の世代でそうした有益な変化が選択されていくと考えられる。実用面では、この研究成果は遺伝子マッピング研究の際に疾患の原因となる変異の優先順位をつけるのに役立つだろう。



参考文献:
Fu W. et al.(2012): Analysis of 6,515 exomes reveals the recent origin of most human protein-coding variants. Nature, 493, 216–220.
http://dx.doi.org/10.1038/nature11690

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック