大河ドラマ『平清盛』全体的な感想(3)平氏・源氏側の人物造形と配役

 まだ日付は変わっていないのですが、1月10日分の記事として掲載しておきます。全体的な感想(1)は以下の記事で、
https://sicambre.seesaa.net/article/201301article_5.html
全体的な感想(2)は以下の記事で述べました。
https://sicambre.seesaa.net/article/201301article_7.html

 全体的には、配役はおおむね成功だったのではないか、と思います。まずは主役の清盛についてですが、その人物造形については、上記の全体的な感想(1)で述べたので省略します。清盛役の松山ケンイチ氏について、放送開始前はよく知らなかったのですが、予告を見て演技に不安を覚えました。じっさいに放送が始まると、前半は不満に思うところが少なからずありましたし、一部?で言われているほど演技力があるわけでもない、と思ったものですが、後半、とくに老境(現代日本社会では老境というほどの年齢ではありませんが)に入ってからは、メイク担当の方の頑張りもあって、見応えのある演技になっていたと思います。

 松山氏は全体的にはかなり健闘しており、大河ドラマとしては前代未聞の低視聴率になった原因を松山氏の演技に求める見解には同意できません。ただ、1年間通して視聴して、松山氏にはスター俳優としての華はないように感じたので、低視聴率の一因として松山氏の問題点を挙げるとするならば、華のなさということになるのかもしれません。ただ、一部?の世評ほど高くはないにしても、松山氏の演技力は若手としては上位のほうでしょうし、松山氏は今後経験を積んでいけばさらに伸びそうなので、高倉健・吉永小百合・木村拓哉の各氏のようなスター俳優にはならなくとも、存在感のある俳優として第一線で長く活躍し続けていくのではないか、と思います。他の人物について、以下、平氏・源氏・天皇家・貴族・その他の順で述べていくつもりだったのですが、かなり長くなりそうなので、平氏・源氏側とその他の2回に分けることにします。


 まずは平氏および平氏配下の人物についてです。初回の実質的な主役だった忠盛は、初回の前半では青臭さを見せていましたが、それ以降は清濁併せ呑む大人物で、清盛の導き手となりました。『風と雲と虹と』の良将や『独眼竜政宗』の輝宗と同じく、厳しさと優しさを兼ね備えた、理想の父親像を見せたと思います。忠盛役の中井貴一氏の好演も期待通りでした。忠盛の父の正盛は、中村敦夫氏が演じるということで注目していたのですが、初回の前半で退場となったのは残念で、もっと見たかったものです。

 忠盛の正妻である宗子(池禅尼)は、伊勢平氏の頭領の妻として、自分はもちろん夫の実子でもない清盛を実子二人と分け隔てなく育てようとし、普段は良妻賢母なのですが、家盛が木から落ちた時や死んだ時など、時として情念というか生の感情を露わにすることがあり、序盤は普段から清盛との距離感を出さねばならないところなど、演じるのがなかなか難しい役だったと思います。そうした難しい役回りの宗子を、和久井映見は期待通り好演しました。清盛の弟たちのうち、実母が宗子ではない経盛・教盛・忠度にはあまり見せ場がありませんでしたが、それぞれ文・武・和歌に長けた人物という性格付けがなされ、完全に埋没しなかったのはよかったと思います。

 家盛・頼盛という宗子の実子二人にはそれなりに見せ場があり、ともに直接には血縁関係にない兄の清盛にたいする複雑な想いが表現されていましたし、二人ともかなりの好演だったと思います。とくに家盛は、清盛との対比で恋仲の女性を諦めねばならなかったことなど、若い頃の清盛と対照的に優等生的に描かれ、母の宗子と伊勢平氏一門のことを思って忠盛の後継者の座に名乗り出るものの、それが一門の分裂を招く行為をであることを悟って愕然とするところなど、登場期間は短かったのですが、大東駿介氏の好演もあって深く印象に残りました。

 平家の家人では、序盤から登場していた家貞・忠清・盛国の三人に期待していましたが、放送開始前の期待・予想と比較すると、意外なほどに目立ちませんでした。とくに盛国は、上川隆也氏が演じるということもあって、ひじょうに重要な役になるのではないか、と予想していたのですが、所々で有能なところを見せるものの、とくに清盛が棟梁となって以降は置物と化した感があり、盛国の妻も結婚後にまったく触れられなかったのはなんとも残念です。ただ、三人とも演技にまったく不満はありませんでしたが。この三人が目立たなかったくらいですから、清盛の乳父の盛康・家盛の乳父の維綱・頼盛の乳父の宗清・家貞の息子の貞能にも見せ場が少なく、それぞれ力量のある俳優を配しただけに、もったいなかったなあ、と思います。

 清盛の妻子では、清盛の最初の妻である明子が、結婚の回と退場の回くらいしか見せ場がなかったものの、控えめな賢妻という感じで好印象でした。この作品には性別を問わず癖のある人物が多かったので、常識人というか裏のない明子の人柄にはほっとさせられるところがありました。明子役は加藤あい氏ということで、放送開始前は演技力がかなり不安だったのですが、役に合っていたということもあるのか、懸念していたよりもはるかによかったと思います。テレビ朝日系の『風林火山』の頃より、時代劇の演技力が向上していた、ということもあるのでしょう。

 清盛の後妻である時子は、放送開始前にはメインヒロインだと予想していたのですが、それなりに台詞はあり、『源氏物語』に憧れる夢見る少女から、伊勢平氏一門の棟梁の正妻としての覚悟を決め、壇ノ浦で入水するまでの成長過程には確かに見どころがあったものの、予想していたよりずっと見せ場が少なく、意外なほど置物と化した感があります。こちらも、演じるのが深田恭子氏ということでかなり不安だったのですが、深田氏の適性を考慮した人物造形になっていたように思いますし、演技に不満の残るところもありましたが、懸念していたよりはよかったと思います。

 清盛の子供たちは、重盛にかなりの見せ場があったものの、若くして死んだ基盛は仕方ないにしても、宗盛・知盛・重衡・徳子といった清盛と時子との間の子供たちには意外なほど見せ場が少なかったように思います。おそらくそれと関連して、2005年の大河ドラマ『義経』と比較すると、清盛の子供を演じた俳優の知名度(それぞれ放送時点での比較)がかなり劣ることは否めません。だからといって、この作品の清盛の子供を演じた俳優の演技に大きな不満はなく、むしろ高く評価してはいるのですが、『義経』では重盛・宗盛・知盛・重衡の妻にも知名度の高い女優が起用されたことと比較すると、この作品では清盛の息子たちのうち妻が登場したのは重盛だけということからも、清盛の子供たちの比重が軽かったことが分かります。

 ただ、宗盛・知盛・重衡には見せ場が少なかったとはいっても、それぞれしっかりと性格付けがなされており、完全に埋没したということはありませんでした。宗盛は、幼い頃より暗愚を予感させる描写となっており、終始頼りない無能な人物として描かれましたが、息子の清宗への態度など人のよさそうなところや、兄の重盛にたいする劣等感など屈折したところも見られ、なかなか見応えのある人物になっていたように思います。知盛・重衡は宗盛よりもさらに見せ場が少なかったのですが、知盛の冷静なところや、重衡の屈託のなさは印象に残りました。

 清盛の子供たちのなかで他を圧倒して重要な役割を担った重盛は、基本的には『平家物語』などに基づくおなじみの人物像に近かったと思います。ただ、この作品では大物の清盛と比較して小物だ、という設定が強調された感がありました。そこは残念ではありましたが、この作品ではそれが物語のうえで重要な構造を担っており、連続テレビドラマとしてはなかなかよかったのではないか、と思います。重盛が弟たちに威厳を見せようとする場面と、偉大な父の前で無力感を味わう場面とを演じ分けるなど、窪田正孝氏の演技は強く印象に残るものであり、『ゲゲゲの女房』を視聴していたのでそれなりに期待していたのですが、その期待をはるかに上回る熱演で、大いに評価を高めたのではないか、と思います。

 清盛の息子たちの妻のうち唯一登場した重盛の妻である経子は、重盛の母である明子と同じく、癖がなく控えめな賢妻という感じで好印象でした。ただ、経子は明子と比較して、兄が成親ということで、平氏一門にあって難しい立場にあったというか、背負っているものが大きく、そのことに重盛が苦悩する、という側面もありました。そうしたなかで、重盛・経子夫妻がお互いを労わる姿には好感が持てましたし、経子が壇ノ浦まで平氏一門と行動を共にしたという設定も、悲惨な運命ではありますが、ほっとさせられたところもあります。経子役の高橋愛氏の演技は放送前にはやや不安だったのですが、全体的にはなかなかの好演だったと思います。


 源氏については、河内源氏も摂津源氏も一まとめにした扱いで、頼政が義朝の配下であるかのような描写になっていたことに疑問がありますが、この問題は次回述べることにします。その頼政は、登場場面が少なかったのですが、なかなか存在感はあったように思います。主人公の清盛にとって前半の好敵手だった義朝は、保元の乱後は、大物として描かれるようになった清盛と対照的に、器の小ささが強調された感がありますが、全体的には、粗野なところがあるものの、有能で魅力的に描かれていました。義朝役の玉木宏氏の演技には不満なところもありましたが、全体的には好演だったと思います。

 義朝の父の為義は、かなり情けない人物として描かれました。じっさいの為義はここまで情けない人物ではなかったでしょうが、河内源氏の低迷期を印象づけるための人物造形ということでしょうから、あるていど仕方のないところかな、と思います。そうした人物造形を前提とすると、為義の演技には満足しました。第三部で清盛と対照的に描かれた頼朝は、全体の語りも担当し、かなり重要な役割を担いました。伊豆では無気力な時期が長く、もどかしい人物造形になっていましたが、清盛との対比を意識したというか優先したということなのでしょう。正直なところ、序盤の語りはかなり下手でしたが、終盤は序盤よりよくなっていたと思います。演技については、幼少期・少年期ともかなり良かったと思うのですが、成人後は物足りないところのあった感が否めません。

 義経は知名度が高いということで公式サイトでも宣伝に力が入れられていたように思うのですが、さほど重要な役ではなく、これといって見せ場もありませんでした。むしろ、義経配下の弁慶のほうが、頼朝・義経に清盛の役割を伝えるという意味で、重要な役割を担ったように思います。義経も弁慶も、演技自体には満足しています。義朝の弟たちでは、為朝が少ない出番ながら強烈な印象を残しました。配役発表の自伝で為朝にはかなり期待していましたが、演出で戯画化されたところがあったとはいえ、大満足の演技でした。義朝の子供たち頼朝・義経以外では、粗野なところは戯画化された感もありますが、義平が存在感を示しました。

 源氏側の女性では、由良・常盤・政子が主要人物と言えるでしょうが、由良は喜劇的な場面で登場することが多く、多少そんな役回りなのかな、とも思いましたが、保元の乱の前後で武士団の棟梁の妻らしい覚悟が描かれ、見せ場があったのは何よりでした。演技も、なかなかよかったと思います。常盤は、登場前に予想していたよりも難しい役で、声には最後まで慣れませんでしたが、演じた武井咲氏は健闘していたと思います。政子は頼朝を覚醒させる役割を担い、この作品でもとくに戯画化のなされた人物造形になったように思うのですが、演技自体は懸念していたよりも悪くなかったと思います。

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