フロレシエンシスの祖先は?

 まだ日付は変わっていないのですが、12月7日分の記事として掲載しておきます。インドネシア領フローレス島にあるリアンブア洞窟の後期~末期更新世の地層で21世紀になって発見された人骨群は、一部では病変の現生人類(ホモ=サピエンス)との説が根強く主張されていますが、その独特の特徴から、人類の新種ホモ=フロレシエンシスと分類する見解が、今では学界でも広く受け入れられているように思います。しかし、新種説でほぼ確定しつつあるとはいっても、フロレシエンシスの人類進化史における位置づけについては、まだ議論が収束していないように思います。つまり、フロレシエンシスがどのような人類種から進化したのかという問題で、大別すると、エレクトスの島嶼化説と、エレクトスの出現以前に現生人類の祖先の系統と分岐したという説があります。最近になって、1年以上前に公開されているのでこの分野としてはやや情報が古いと言えるかもしれませんが、この問題についてのブログの記事を読みました。

 オーストラリア国立大学のアーギュー(Debbie Argue)博士は、解剖学的比較から、フローレス島の更新世の人骨群が病変の現生人類との説を否定し、他の動物と同じく、食資源の乏しい島で小型化したのであり、人類の新種である、との見解を提示しています。アーギュー博士たちは、フロレシエンシスの正基準標本であるLB1を他の人骨と比較しました。その結果、LB1とエレクトスとの間には大きな違いが認められ、エレクトスがフロレシエンシスの祖先とは考えにくい、との結論が得られましたが、これは視覚的な比較に基づくものであり、自分たちが計画している定量的比較に基づいているわけではない、ともアーギュー博士は指摘しています。

 もし、フロレシエンシスの祖先がエレクトスではない場合、どの人類種が祖先候補になるのかというと、アーギュー博士たちは、エレクトス以前のホモ属であるハビリスやルドルフェンシス(アウストラロピテクス属に分類する見解もあります)がフロレシエンシスの祖先という可能性を想定しています。またアーギュー博士は別の可能性も考えており、それは、フロレシエンシスは島嶼化により小型化したのではなく、LB1のような形態で出アフリカを果たした、というものです。この可能性について、アウストラロピテクス=セディバの研究を進めている、南アフリカのウィットウォータースランド大学のバーガー(Lee Rogers Berger)教授は、セディバがフロレシエンシスの祖先の候補かもしれない、との見解を述べています。

 以上、このブログ記事についてざっと述べましたが、フローレス島の更新世の人骨群が病変の現生人類という可能性は低い、とは言えるにしても、ではこの人骨群を人類の新種ホモ=フロレシエンシスと分類した場合、どの人類種がその祖先なのかというと、まださまざまな可能性が考えられる状況であり、今後の研究の進展を待つしかない、という状況だと思います。セディバがフロレシエンシスの祖先候補との見解は、確かに真剣に検証されるべきだとは思いますが、そもそもセディバの人類進化史における位置づけもまだはっきりとしておらず、研究の進展には、詳細な分析とともに、新たな人骨の発見が必要になるでしょう。

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