2012年の古人類学界

まだ日付は変わっていないのですが、12月26日分の記事として掲載しておきます。あくまでも私の関心に基づいたものですが、今年の古人類学界で私がもっとも注目したのは、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)が洞窟壁画を描いていた可能性が指摘されたことです。まず、スペイン南部のネルジャ洞窟の壁画が、年代測定の結果ネアンデルタール人の所産である可能性が指摘されましたが、
https://sicambre.seesaa.net/article/201202article_9.html
https://sicambre.seesaa.net/article/201202article_10.html
https://sicambre.seesaa.net/article/201202article_17.html
資金不足のために研究を続けることが危ぶまれているようで、なんとか研究を続けてもらいたいものです。続いて、スペイン北部のビスケー湾沿いにある11ヶ所の洞窟壁画の年代測定の結果、これらがネアンデルタール人の所産である可能性が指摘されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/201206article_15.html
https://sicambre.seesaa.net/article/201206article_16.html
https://sicambre.seesaa.net/article/201207article_25.html

 これらの洞窟壁画の一部もしくは全部がネアンデルタール人の所産だとすると、人類史上どのような意義があるのかということは、
https://sicambre.seesaa.net/article/201207article_4.html
にてまとめました。この問題は、「現代的行動」の起源とその評価とも関わっており、ネアンデルタール人と現生人類(ホモ=サピエンス)との認知能力の違いを強調する、現生人類アフリカ単一起源説が圧倒的に優勢になって以降主流だった見解を、根底から覆すことになるかもしれません。

 ネアンデルタール人所産の可能性のある壁画の他には、デニソワ人の完全に近いゲノム配列が報告されたことと、
https://sicambre.seesaa.net/article/201209article_4.html
ケニア北部で発見された初期更新世の化石が、初期ホモ属の進化というか、鮮新世末期~更新世初期の人類の区分を見直すことになるかもしれない、
https://sicambre.seesaa.net/article/201208article_10.html
ということに注目しています。ホモ属出現よりも前では、エチオピアで発見された340万年前頃の人骨が注目され、この人骨には同年代のアウストラロピテクス=アファレンシスよりも樹上適応形態の保持が認められ、400~300万年前頃のアフリカ東部には歩行様式の異なる複数の人類種が存在した、という可能性が高くなりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/201203article_31.html

 この他にも、取り上げるべき研究は多いのですが、未読の論文がかなり多くなってしまい、古人類学の最新の動向になかなか追いつけていなのが現状で、重要な研究でありながら把握しきれていないものも多いのではないか、と思います。昨年末にも同様のことを述べましたが、今年は昨年よりさらに状況が悪化してしまいました。この状況を劇的に改善させられる自信はまったくないので、せめて昨年並には本・論文を読み、地道に最新の動向を追いかけていこう、と考えています。また、人類の進化についての私見を最後にまとめてから5年近く経ったので、このブログで少しずつ私見を整理して掲載していこう、とも考えています。

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  • 2016年の古人類学界

    Excerpt: これは12月29日分の記事として掲載しておきます。あくまでも私の関心に基づいたものですが、年末になったので、今年(2016年)も古人類学界について振り返っていくことにします。今年の動向を私の関心に沿っ.. Weblog: 雑記帳 racked: 2016-12-28 11:59
  • 2017年の古人類学界

    Excerpt: これは12月29日分の記事として掲載しておきます。あくまでも私の関心に基づいたものですが、年末になったので、今年(2017年)も古人類学界について振り返っていくことにします。今年の動向を私の関心に沿っ.. Weblog: 雑記帳 racked: 2017-12-28 16:52
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    Excerpt: あくまでも私の関心に基づいたものですが、年末になったので、今年(2018年)も古人類学界について振り返っていくことにします。今年の動向を私の関心に沿って整理すると、以下のようになります。 Weblog: 雑記帳 racked: 2018-12-28 15:59