鈴木哲雄『動乱の東国史1 平将門と東国武士団』

 まだ日付は変わっていないのですが、12月23日分の記事として掲載しておきます。『動乱の東国史』全7巻の第1巻として、2012年9月に吉川弘文館より刊行されました。本書は、平将門の乱を中心として、前九年・後三年の役や保元・平治の乱などの動乱を軸に、9世紀後半~12世紀後半の治承・寿永の乱の直前までの、古代~中世へと転換していく東国史を叙述します。本書の特徴は、平将門の乱の舞台となった坂東が、今よりも広い内海を有し、河川の交錯する水上交通の盛んな地域であった、とする近年の研究成果を踏まえた叙述になっていることで、陸の東国武士と海の西国武士といった通俗的な見解に馴染んでいる人々にとっては新鮮かもしれません。また、古代~中世への転機の要因の候補として、気候変動・災害に注目していることも、本書の特徴と言えそうです。

 表題に平将門と銘打っているだけあって、本書では平将門の乱の記述にかなりの分量が割かれており、水上交通の把握という観点からも、平将門の乱が検証されています。じっさい、本書P58の地図を見ると、平将門の乱が水上交通という観点を抜きにして考えにくいことがよく分かります。平将門の乱を研究するうえで必ず取り上げねばならないと言ってよい『将門記』は、その成立年代・作者について以前より議論が続いています。本書では、まだ活字化されていない福田豊彦氏の見解が引用され、『将門記』の作者として、式家宇合流藤原氏の敦信・明衡(敦信の嫡子)・敦基(明衡の子供)・敦光(敦基の弟)・茂明(敦基の子)という儒家文人の一門が想定されています。

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