さかのぼる石槍の起源

 まだ日付は変わっていないのですが、12月21日分の記事として掲載しておきます。アフリカ南部で発見された石器の分析により、石槍の起源がじゅうらい考えられていたよりも20万年ほどさかのぼる、と指摘した研究(Wilkins et al., 2012)が報道されました。この研究が対象とした石器は、南アフリカのカサパン1遺跡(Kathu Pan 1)で発見されたものですが、カサパン1遺跡は現代的行動の起源をさぐるうえで重要な遺跡であり、このブログでも以前に取り上げたことがあります。
https://sicambre.seesaa.net/article/201001article_20.html
https://sicambre.seesaa.net/article/201206article_9.html

 カサパン1遺跡で発見された尖頭器は、基部には槍の穂先とされた痕跡が、先端部には衝撃による剥離痕が認められ、実験考古学的データからも、槍の穂先として使用されたことが確認される、とこの研究では主張されています。ただ、電子スピン共鳴法と光ルミネッセンス法を用いての尖頭器の年代にはやや不確実なところもあり、同年代の他の遺跡でも同様の事例を確認する必要がある、とも指摘されています。石槍は、木製の槍と石器という異なる道具を結びつけて殺傷能力を高めるもので、人類集団の拡大に寄与したでしょうが、一定以上の技術力とそれを可能にする形態学的構造および認知能力が要求されます。

 古人類学で主要な論点になっている「現代的行動」の起源にも関わってきますが、現生人類(ホモ=サピエンス)アフリカ単一起源説が優勢になり始めた頃には、認知能力の点で現生人類との違いが強調される傾向にあったネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)が、近年になって「再評価」される傾向にあることを考えると、両者の最終共通祖先には、かなりの程度の認知能力が認められるのではないか、とも思います。その意味で、このカサパン1遺跡で発見された尖頭器が槍の穂先として利用された可能性はじゅうぶんあると思います。


参考文献:
Wilkins J. et al.(2012): Evidence for Early Hafted Hunting Technology. Science, 338, 6109, 942-946.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1227608

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