南部コーカサスにおけるネアンデルタール人の絶滅年代

 まだ日付は変わっていないのですが、12月14日分の記事として掲載しておきます。南部コーカサスにおけるネアンデルタール人の絶滅年代についての研究(Pinhasi et al., 2012)の要約を読みました。この研究は、近年におけるヨーロッパ旧石器時代の年代見直しの成果に沿い、さらに調査対象を広げています。この研究では、コーカサスの中部旧石器時代終末期および上部旧石器時代開始期が、放射性炭素年代測定法により推定されています。中部旧石器時代終末期および上部旧石器時代開始期の推定は、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)と現生人類(ホモ=サピエンス)との関係を理解するうえで、重要な手がかりとなります。

 近年のヨーロッパ旧石器時代の年代見直しにより、中部旧石器時代の終末期と上部旧石器時代の開始期の年代は繰り上がる傾向にあり、それにしたがい、ネアンデルタール人の絶滅年代と現生人類のヨーロッパへの進出時期も以前よりは古く推定されるようになりました。コーカサスでは、北部のメズマイスカヤ(Mezmaiskaya)洞窟遺跡と南部のオルトヴァレクルデ(Ortvale Klde)遺跡の中部旧石器時代終末期の年代測定の見直しにより、ネアンデルタール人は較正年代で39000年前以降には生存していなかったのではないか、と推定されています。

 この研究では、サカジア(Sakajia)やオルトヴァラ(Ortvala)やブロンズ(Bronze)といった遺跡で出土した骨の放射性炭素年代測定により、コーカサスにおける中部旧石器時代~上部旧石器時代移行期の年代について、新たな事例が報告されています。サカジア遺跡年代測定結果によると、後期中部旧石器時代の終わりと上部旧石器時代の開始が較正年代で40200~37140年前に起きた、と推定されます。オルトヴァレの近隣遺跡では中部旧石器の終わりはより早く、43540~41420年前と推定されます。ブロンズ洞窟の中部旧石器時代の層は、後期中部旧石器段階を含まない、ということが確認されました。

 これらの結果が示唆しているのは、ネアンデルタール人は南部コーカサスにおいて較正年代で37000年前以後は生存していなかっただろう、ということです。これは、コーカサス南部におけるネアンデルタール人の絶滅は、北部コーカサスやヨーロッパの他地域で報告されたのと同じような年代になるだろう、という見解と整合的です。こうしたことからこの研究では、現生人類はネアンデルタール人が絶滅した数千年後にコーカサスに到着し、両者はおそらく互いに影響し合わなかっただろう、と示唆されています。以上、この研究についてざっと述べてきましたが、中部旧石器文化はネアンデルタール人の所産で、上部旧石器文化は現生人類の所産との大前提、とくに前者については、慎重な検証が必要なのではないか、と思います。


参考文献:
Pinhasi R. et al.(2012): New chronology for the Middle Palaeolithic of the southern Caucasus suggests early demise of Neanderthals in this region. Journal of Human Evolution, 63, 6, 770-780.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jhevol.2012.08.004

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック