持続的だった初期細石器の使用

 アフリカ南部における初期細石器についての研究(Brow et al., 2011)が報道されました。現在、現生人類(ホモ=サピエンス)が20~10万年前頃までにアフリカに出現した、という点についてはおおむね合意が得られています。しかし、象徴的思考や高度な計画性といった精神・行動面での現代性がいつ出現したのか、また現生人類はそうした認識能力をいつ獲得したのかという問題をめぐっては、まだ大まかな共通認識には至っていない、というのが現状です。現代人と通ずるような「高度な知性」の指標とされてきたのは、装飾品も含む高度な工芸品や壁画や高度な技術を用いた石器などの道具です。この研究では、そうした現代的行動・知性の考古学的指標とされる細石器について、アフリカ南部の事例が報告されています。

 この研究が対象としたのは、南アフリカ南岸のピナクルポイント遺跡で、現代的行動・知性の起源に関する議論では有名な遺跡です。この研究では、ピナクルポイント遺跡で発見された71000年前頃の小型石刃(細石器)が報告されています。じゅうらい、細石器が世界規模で確認されるようになるのは完新世中期で、初期にはその出現は斑状だと理解されていました。細石器の出現例は40000年以上前だと稀になり、65000~60000年前に一時的に南アフリカに現われて消えた、と考えられていました。先進的な細石器の製作技術は断続的に現れるものの、長期間継続はされなかった、というわけです。

 しかしこの研究は、加熱処理された石からの細石器製作が71000年前頃から11000年間ほど続いたことを示し、じゅうらい考えられていたよりも、細石器製作のような「先進的な技術」が長く継続したことを指摘しています。また、こうした細石器は弓矢など投擲武器を構成する道具としても用いられ、現生人類が出アフリカ後にネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)など他の人類と遭遇した時に、じゅうらいのものよりも強力な武器であるそれらは、現生人類が最終的に勝利した一因になったのではないか、とも指摘されています。

 ただ、細石器製作技術が現生人類のネアンデルタール人にたいする優越の一因になったという見解は、現時点では考古学的に証明されたとは言えない状況だと思います。その証明のためには、ユーラシア各地の細石刃と現生人類の出現年代と、ネアンデルタール人の絶滅時期について、広範かつ精細な年代見直しの上での検証が必要になるでしょう。一部の地域では、現生人類のネアンデルタール人にたいする優越の一因として、細石器の使用があるかもしれませんが、それが他の地域・年代にも当てはまるとは限らないだろう、と思います。


参考文献:
Brown KS. et al.(2012): An early and enduring advanced technology originating 71,000 years ago in South Africa. Nature, 491, 590–593.
http://dx.doi.org/10.1038/nature11660

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