柴田哲孝『TENGU』(祥伝社、2006年)

 ウェブリブログの調子が悪く、11月1日から長期メンテナンスに入ったので、この間は更新できませんでしたが、公開予定の記事は用意していたので、まとめて日分更新することにします。これは11月2日分の記事として掲載しておきます。

 本書は、26年前に辺鄙な村で起きた奇怪な連続殺人事件を、国際情勢とからめつつ、過去と現在とを往復しながら描いていっており、読ませるという点では、たいへん面白いミステリーになっていると思います。私は夜になってから読み始めたのですが、多少眠かったにもかかわらず、続きが気になって一気に読み進め、深夜1時半に読み終えました。作者のミステリー作家としての力量はなかなかのものだと思います。人物造形というか設定に男性本位的なところが見られますが、ミステリーとしての面白さを減じているわけではない、と思います。

 ただ残念なのは、本書の核となっている、真犯人たるUMA(未確認動物)はネアンデルタール人との設定にかなりの無理があったことです。本書では、河合信和『ネアンデルタール人と現代人』(文藝春秋社、1999年)が参考文献の一つとして挙げられているのですが、作中では、DNA分析の結果、UMA(未確認動物)たるネアンデルタール人と現代人との分岐が200~150万年前頃とされています。しかし、ネアンデルタール人の系統と現代人の系統との分岐年代については、研究者により推定年代に幅はあるものの、おおむね80~30万年前の間におさまります。

 また、ネアンデルタール人は東アジア南部や東南アジアやアメリカ大陸では存在が確認されておらず、ベトナムや北アメリカ大陸にいたUMA(未確認動物)がネアンデルタール人というのは無理があります。さらに、作中ではUMA(未確認動物)たるネアンデルタール人の身長が2m以上とされていますが、じっさいには、推定身長180cm以上のネアンデルタール人骨は発見されていないはずです。このように、『ネアンデルタール人と現代人』を参考文献に挙げているわりには、考証というか設定に甘さが見られます。オカルト的なUMA(未確認動物)本の世界観をかなり取り入れてしまったからでしょうか。とはいえ、こうした設定の甘さが致命傷にはなっているというわけではないと思います。

 以上は、確か4~5年前に執筆したと記憶していますが、その後、デニソワ人についての研究が公表されました。デニソワ人(が分類されるべき種もしくは亜種)は現生人類との共通祖先から分岐した後、ネアンデルタール人の系統と分岐したとされており、シベリアから東南アジアの熱帯地域まで、広範な地理的・生態学的範囲に存在していた可能性が指摘されていますが、
https://sicambre.seesaa.net/article/201109article_24.html
本書のUMA(未確認動物)をデニソワ人と置き換えると面白いのではないかな、とも思います。

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