人類集団の拡大は農耕開始の前か後か

 まだ日付は変わっていないのですが、10月26日分の記事として掲載しておきます。人類集団の拡大は農耕開始の前か後か、という問題についての研究(Zheng et al., 2012)が公表されました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用ですが、現代人11集団900人上のミトコンドリアを解析したこの研究では、更新性末期~完新世初期にかけての人類集団の拡大は、最終氷期最盛期よりも後で、新石器時代よりも前だったのではないか、と示唆されています。そのことからこの研究では、最終氷期最盛期後の穏やかな気候が人類集団拡大の要因となり、それが農業導入の要因の一つとなって、やがて農業は補完的な食料源から主要な食料源へと変わっていったのではないか、と指摘されています。現時点では妥当な見解と言えそうです。


【進化】農業が盛んになる前から繁栄していた先史時代のヒト集団マイブックマークに追加する

 ヒト集団の大規模な成長と活動は、農業の発達によって促進されたが、新石器時代より前から大きく拡大し始めたのか、その後だったのかについては論争が続いている。ヒトは、新石器時代に作物を栽培し、動物を家畜化し始めている。農業は、約1万2000~1万1000年前に西アジアの肥沃な三日月地帯で発生し、その後の数千年間に他の地域で独自に発達したと考えられている。今回、L Jinたちは、世界各地でのヒトの人口増加パターンを比較するために、1000ゲノムプロジェクトで得られたアフリカ、ヨーロッパ、南北アメリカの11集団の900点以上のミトコンドリアゲノムを解析した。その結果、Jinたちは、拡大するヒト系統を同定し、過去の人口統計学的変動を再現した。アフリカ、ヨーロッパ、南北アメリカのいずれの大陸でも、農業が登場するまでに、主要なヒト系統の大部分が融合していた。

 今回の研究で得られたデータによれば、大規模な人口増加が起こったのが、最終氷期最盛期(最終氷期のピーク)より後で、新石器時代より前であったことが示唆されている。Jinたちは、最終氷期最盛期後の穏やかな気候によって、過ごしやすい環境となり、これが先史時代のヒト集団の拡大にとって重要な要素となったと考えている。集団の大型化は、農業の導入への駆動力の一つとなった可能性が非常に高く、その結果、農業は、補完的な食料源から主要な食料源へと変貌したのだ。



参考文献:
Zheng H. et al.(2012): MtDNA analysis of global populations support that major population expansions began before Neolithic Time. Scientific Reports, 2, 745.
http://dx.doi.org/10.1038/srep00745

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